日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/4/16

国際自然保護連合(IUCN)によれば、アフリカ全体でライオンの数は過去20年間で43%減少し、現在ではわずか2万3000頭になっている。ボツワナに残されているのは約3000頭だ。これほど急激に減った主な理由としては、開発のほか(ライオンの生息地はかつての8%のみ)、獲物の減少や報復的な殺害などがある。

「ライオンをその場で殺害せずに移動させようとしている政府を批判すべきではありません」とモード氏は言う。「しかしほとんどの場合、移殖はその労力に見合う結果が得られないため、既成概念にとらわれない発想でより有効な解決策を見いだす必要があります」

正しい答えを求めて

一般に、インドのトラから米国のオオカミまで、問題を起こす肉食動物を移殖させるという対策は、複雑か、あるいは期待にそぐわない結果に終わることが多い。

たとえば、1997年に「Biodiversity & Conservation」に発表された、世界各地で行われた複数の研究のレビューでは、大半の大型肉食獣が、たとえ数百キロ先からでも元いた場所に戻ろうとした、あるいは戻る途中で死んでしまったことが示された。同様に、2011年に「Wildlife Biology」に掲載された肉食獣10種を対象とした調査でも、動物の移殖は、ほかの方法と比べてコストがかかるうえ効果が薄いという結論に達している。

ボツワナで行われたほかの大型ネコ科動物の調査でも、こうした世界の研究結果とよく似た傾向が見られる。ある研究では、場所を移されたヒョウ4頭のうち3頭が死亡し、4頭目は再び家畜を殺すようになったことが示された。また別の論文によると、移殖後に1年以上生き延びたのは、11頭のチーターのうち2頭だけだったという。この調査結果はそれぞれ2010年の「Wildlife Biology」と2015年の「Oryx」に発表されている。

移殖という対策は基本的に、「肉食動物を厄介払いして、あとはうまくいくよう祈るだけ」に等しいと、ナミビアで保護活動「クワンド肉食獣プロジェクト」のコーディネーターを務めるリース・ハンセン氏は言う。

ただしライオンの場合は、調査がほとんど行われておらず、数十年前に発表された数少ない論文の結論もあやふやなものばかりだった。ライオンの専門家は以前から、移殖は失敗する場合が多いと感じていたが、これまで確かな証拠は得られていなかった。「だれもが正しい答えを知りたいと思っていたのです」とモード氏は言う。

そこで、モード氏とボツワナのライオン保護活動家モンポロキ・モラペディ氏らが、先に述べたようにボツワナ南部で移送された家畜殺しのライオンの追跡調査を行った。同国の野生動物・国立公園局と協力し、2013年から2017年の間に、マギギを含むメス6頭とオス7頭が対象となった。13頭はすべて捕獲された場所から平均160キロほど離れた野生動物保護区内に移殖され、調査には衛星追跡機能のついた首輪を使用した。

驚いたことに、そのうちの6頭は別の場所に放たれてからすぐに再び家畜を襲い始めたため、改めて捕獲をしてまた別の場所に移さなければならなかった。1頭は3度目の捕獲を余儀なくされ、数頭は元いた場所に戻ってしまった。

さらに残念なのは、調査対象13頭のうち10頭が、移殖後1年以内に死亡したことだ。

5頭は、牛を襲われた報復として農民たちに殺された。ほかの5頭は、おそらくは突然ほかのライオンがいる見知らぬ土地にたった1頭で連れてこられたストレスによって衰弱し、衝突や競争につながったのではないかと、研究者らは考えている。

残りの3頭のうち、1頭では首輪が外れ(ほかのライオンとの争いが原因と推測される)、1頭では信号が送信されなくなったため、彼らがその後どうなったのかはわからない。2年後まで生き残りが確認できたのは1頭だけだ。

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衝突を未然に防げ
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