井上社長もワーケーションを楽しんでいるという

違う環境での情報や出合いがアイデアになる

白河 過去の貯金があったからこそ可能だったと。

井上 おっしゃるとおりです。これまで積み重ねてきた社内の信頼関係の残高が今は十分にあるから大きな問題は起きていませんが、3年、5年とこのまま続けていくと、おそらくウエットな人的結びつきが剥離するリスクはあると感じています。それをどう補完していくかを課題と考え、新たなコミュニケーション方法を試行錯誤しているところです。例えば、「Zoom(ズーム)」などのビデオ会議システムのほか、ボイスチャットや音声SNSなど、新しいツールが出るたびに試しています。目的が決まった会議や打ち合わせだけでなく、緩やかな雑談はやはり大事ですね。

白河 コミュニケーションツールの進化が早い環境では、「いろいろと試して、ダメだったら次に移ろう」という柔軟な姿勢で臨むほうがいいですよね。

井上 そう思います。役員やマネジャーは「これまで以上に、自分の言葉で語りかけることが重要だ」と、動画付きの情報コラムを配信したり、新しいコミュニケーションにチャレンジしたりする人が多いようです。私も毎月4本程度、社員向けに動画を配信しています。個人的に関心があるのは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術です。最近は高性能なヘッドセットも安価で手に入るようになり、ゴーグルをつけるだけで非常に鮮明でリアルな360度動画に没入できるのです。「これを使ってリモート会議をするのはどうか? どんな事業ができるだろうか?」と構想しています。

白河 不動産業界ですと、「バーチャル内見」も今後は増えそうですね。

井上 まさに当社も開発中です。国内だけで500万件、海外も含めると 2億件になる不動産情報について、2次元の間取り図をAI(人工知能)を使って自動で3D化するという研究開発を進めているんです。VRゴーグルを装着して間取り図を見るだけで、現地に行かなくても「ベランダから見た眺望はこんな感じなんだね」とわかるようになります。ほぼ自社開発で、すでに8~9割できあがっています。

白河 面白いですね。技術の進化で、これからの働き方も暮らしもビジネスも劇的に変わっていくのでしょうね。御社の事業の中でぜひ伺いたいのが「ワーケーション」への取り組みです。ワーケーションとは、ワークとバケーションを組み合わせた言葉で、ICT(情報通信技術)を活用しながらリゾート地など普段の職場とは異なる場所で働き、地域の魅力に触れる取り組みのこと。新しい働き方の一つのスタイルとして注目が集まっています。先日、「ワーケーションの聖地」と呼ばれる和歌山県白浜町で開催されたイベントに参加し、御社の事業責任者、小池克典さんのお話を聞きました。「ワーケーションによって生産性も上がる」というお話が非常に興味深かったです。

井上 ワーケーションには長時間の移動が伴うことが多いので、通常業務をどれだけこなせるかという単純な指標で考えると、生産性は下がるのかもしれません。しかし、普段とは違う環境の中で知り得る情報や出合いなど、アイデアの創出につながるインプットが中長期で見たときの生産性に結びついていくものと考えています。現在、全国の14拠点でワーケーションに利用できる施設「LivingAnywhere Commons(リビングエニウェアコモンズ、以下LAC)」を運営し、社員も活用しています。

白河 この施設はもともと地域にあったものを活用しているのでしょうか?

井上 はい、廃校になった校舎など使われなくなった公共施設や、民間の保養所など、遊休不動産をリノベーションして再利用しています。廃校は全国に6000校あり、放置されているところが少なくないのが現状です。自治体からも「使ってもらえるのならぜひ」と歓迎されています。