
スープを構成する素材は、煮干し・昆布・シイタケ・宗田節・アサリ・セロリ・ショウガ・玉ネギなど多岐に及ぶ。煮干し・昆布・アサリ等の「海の幸」の滋味がギュッと凝縮されたスープは、『にし乃』や『キング製麺』に通ずるものがあるが、今回は、それに加えて、セロリ・ショウガ・玉ネギ等の香味野菜を大量にオン。
「これまでの店舗のスープよりも一層まろやかな味わいとなるよう、ナチュラルな甘みをタップリとたたえた香味野菜を加えました」
キレよりも、各種素材のうま味が仲むつまじく手を結ぶコクを重視。マニア向けでなく、あくまで一般層に訴求する味わいに仕上げたいという意図が、明確に垣間見える構成だ。合わせる塩ダレも、塩・酒・ザラメ・鷹(たか)の爪といった定番素材を巧みに使用。
「至高のスタンダード」という言葉がふさわしい一杯だ。確かに、本郷に生活拠点を置く人たちが好む味の最大公約数を真摯に追求すれば、このような答えに行き着くのかも知れない。
スープに合わせる香味油にも、『ぷれじでんと』ならではのひと工夫が凝らされる。
鯛(タイ)の干物・貝柱・ニンニク・ショウガで作られた油は、同じく魚介をベースとしたスープと阿吽(あうん)の呼吸を奏で、舌上でピタリと一体化。
麺は、『らぁめん小池』や『にし乃』と同様、埼玉県新座市の名門『村上朝日製麺所』への特注品だ。芳醇(ほうじゅん)なスープを引き立てる黒子に徹するひたむきさが、麺が存分に自己を主張する『キング製麺』と対極を成していて面白い。手掛けるラーメンのコンセプトによって、発想をガラリと切り替えることができる。それも、水原氏が持つ「強み」のひとつだろう。
水原店主の話に耳を傾けながら、箸とレンゲを動かしているうちに、気が付けば丼は空っぽに。いつの間にか食べ終わってしまっているという現象が生じるのは、その1杯が超一流であることのまさに証である。
この店もまた、オープン早々にして、ラーメンマニアを中心に絶大な支持を獲得している。このまま順調にいけば、『ミシュランガイド』掲載4店舗目となる日が来るのも、そう遠い未来の話ではないと思う。
(ラーメン官僚 田中一明)
1972年11月生まれ。高校在学中に初めてラーメン専門店を訪れ、ラーメンに魅せられる。大学在学中の1995年から、本格的な食べ歩きを開始。現在までに食べたラーメンの杯数は1万4000を超える。全国各地のラーメン事情に精通。ライフワークは隠れた名店の発掘。中央官庁に勤務している。