HKT48「劇はじ」 メンバーで脚本・演出・広報も全部

福岡・博多を拠点とするアイドルグループHKT48がオンライン演劇公演「HKT48、劇団はじめます。」(「劇はじ」)を2月20~28日に上演した。HKT48は総勢48人(3月下旬現在、IZ*ONE専任中の2人を除く)のうち、36人のメンバーが携わることになり、異なるオリジナルのストーリーでの演目を上演する18人ずつ、「ミュン密」と「ごりらぐみ」という2つのチームに分かれての開催となった。

不本意アンロック

演劇とアイドルの相性は良く、ミュージカルの舞台にも立つアイドルは多数存在する。しかし、「劇はじ」の驚くべき点は、フルリモート劇団「劇団ノーミーツ」がサポートするものの、脚本、演出、美術・衣装、音響、映像・配信、プロデューサー、宣伝・広報といったスタッフとしての役職もすべてHKT48のメンバーが担うということだ。

そもそも「劇はじ」に参加するか否か、そして、どの役職を希望するかはすべてメンバーの意志に任せられた。劇団ノーミーツによる各裏方の仕事を具体的に解説するオンラインでのワークショップがあり、さらに、疑問のあるメンバーには個別に相談する場も設けられたという。

「劇はじ」への取り組み方はメンバーそれぞれだ。チーム「ミュン密」の青春群像劇「水色アルタイル」はアイドルに憧れる主人公の少女・るなを描いた青春の物語だ。1期生でチームHキャプテンの松岡菜摘は、役者として後輩が手掛けた脚本や演出に身を任せて、アイドルを夢見る主人公のクラスメートを演じる。

水色アルタイル

松岡は「HKT48での先輩後輩は関係なく、石(安伊)の脚本や、(田島)芽瑠の演出で演じます。主人公の(石橋)颯と9歳違う私が同級生という設定も、ならではのものだと思います」と語る。

ティザーはJR唐津線の鬼塚駅で撮影したが、事前のロケハン、カメラマンとの調整、香盤表作成もすべてメンバーが行ったという。「これまではマネジャーさんからだったスケジュールの連絡が、プロデューサーのりこぴ(坂口理子)から来るのは不思議な感じでした」(松岡)。

一方、ソロでの活動も多い4期生の豊永阿紀は脚本を担当。チーム「ごりらぐみ」の公演内容は豊永を中心にプロデューサー、演出担当と絞り込んでいった。そうして決まった「不本意アンロック」は内気な主人公の佳(ケイ)が、見知らぬ他人の“キーパーソン”になっていく物語。「真の人間関係とは?」「自分の存在意義とは?」という問いに向き合っていく。

豊永は「書き上げるまでが大変だと思っていたけど、脚本次第でいくら役者が頑張っても伝わらないこともあるので、リモートでの本読みなどでも本番まで気が抜けない」と話す。これまでの活動とはまた異なる責任感を抱いているようだ。

「これまでもHKT48にはみんなで何かを作り上げていく文化があったけど、『劇はじ』はまた違った形で力を合わせている。それぞれの役職で新たな才能を発揮するメンバーが出てくればいい」(松岡)。「もうリモートはリアルの下位互換ではなくて、世界中の人々に気軽に見てもらえるだけではない強みがあるはず。それを探していきたい」(豊永)。

「劇はじ」でHKT48のメンバーが実践しているのは、自分で考えて行動する主体性だろう。コロナ禍での活動が制約されている女性アイドルグループが多い中、メンバー主導で作り上げるオンライン演劇が、次の有効な一手になるかの試金石となりそうだ。

(「日経エンタテインメント!」3月号の記事を再構成 文/伊藤哲郎)

[日経MJ2021年3月12日付]

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