塩がヒットの立役者 沖縄の伝統銘菓「ちんすこう」
魅惑のソルトワールド(51)
沖縄の伝統銘菓「ちんすこう」をご存じだろうか。沖縄に行った人はもちろん、お土産としてもらったことがある人も多いのではないだろうか。ちんすこうは、砂糖とラードと小麦粉を練って焼き上げたクッキーのような焼き菓子。非常にシンプルだが、今や沖縄土産物ランキング1位の座を守り続ける人気アイテムで、そのバリエーションも星の数ほどある。実はちんすこう人気に火をつけるきっかけが「塩」フレーバーで、家庭でも簡単にできるちんすこうのレシピも合わせて今回はご紹介したい。
「ちんすこう」の名前の由来には2説ある。まずは「ちん=珍」「すこう=おかし」という言葉の組み合わせ。「とても珍しい貴重なお菓子」という意味にちなむ。もう1つは「ちん=金」「すこう=おかし」で、「とても高価なお菓子」という説だ。
琉球王朝時代に中国から伝来したちんすこうは、王侯貴族だけが祝いの席で口にできる宮廷菓子で、庶民がおいそれと口にできるものではなかったという。
当時は今と違い米粉を用い、型に入れて蒸したカステラのようなものだったようだ。その後、王朝料理人から菓子職人へとノウハウが伝授され、1908年創業の沖縄銘菓の老舗「新垣菓子店」が焼き菓子としてのちんすこうを発案したそうだ。
今ではちんすこうを手掛ける製造元が増え、味のバリエーションもプレーンタイプのほか黒糖やマンゴー、紅芋、パイナップルなど沖縄の特産品をイメージさせるフレーバーなど実に多彩になっている。
数あるちんすこうの中でも爆発的ヒットを記録したのが、2005年9月、南風堂(沖縄県糸満市)が発売した「雪塩ちんすこう」。その当時、市場には多くのちんすこうが出回っていたが、リピーターがなかなか誕生しないという課題を抱えていた。ラード特有の脂っこさや、口当たりの重さ、食べるとボロボロと崩れ落ち、手や服が汚れてしまう。消費者の間にそんな不満の声がくすぶっていたからだ。
「さっぱりとした味わいで、ちんすこうならではのサクッとした食感もあり、なめらかな口溶けのちんすこうを作りたい」。そう考えた南風堂が着目したのが、生産が盛んだった地元「沖縄の塩」。塩を加えればすぐに新商品ができるだろう、と当初は甘く考えていたが、実は塩選びにずいぶんと苦労した。納得いく商品ができあがるまで半年近くの時間を要し、試行錯誤を重ねた。
その結果、たどり着いたのが、しょっぱさがまろやかでパウダー状で食感や口溶けに影響しない「宮古島の雪塩」だった。その塩を用いた「雪塩ちんすこう」は、口コミで瞬く間に人気商品の座へと上り詰めた。
なぜちんすこうに塩を入れると、おいしくなるのか。先にも述べたが、ちんすこうは小麦粉、ラード、砂糖と材料は非常にシンプル。動物性脂肪であるラードはコクが非常に強い分、バターやサラダオイルと比べ、口当たりがこってりと重くなりやすい。そこに砂糖の甘さも加わるため、勢い濃厚な味わいになる。
そこで塩が活躍することになる。塩のしょっぱさが、脂肪のこってりとした口当たりや砂糖のべたっとした甘さを滑らかにし、全体をさっぱりとさせる。後味がさっぱりすれば、自然と「もう1つ食べようかな」とまた手が伸びる。
同じく沖縄の伝統銘菓、サーターアンダギー(球状のドーナツのような揚げ菓子。サーター=砂糖、アンダギー=揚げ物という意味)にも「まーす」(沖縄方言で塩のこと)味が登場するようになったのも、それと同じ理屈である。
「雪塩ちんすこう」の爆発的ヒットで現在、「御菓子御殿」×「ぬちまーす」、「ナンポ-」×「北谷の塩」、「名嘉真製菓」×「屋我地島の塩」、「宮城菓子店」×「石垣の塩」など、沖縄の製塩メーカーと菓子メーカーとがコラボした数多くのちんすこうが発売され、さながら「塩ちんすこう戦国時代」の様相を呈している。
一口に塩ちんすこうといっても、その味わいは、しょっぱさがかなり強いザクザクした食感のものから、塩は隠し味程度で、なめらかな食感のものまで幅広い。
コロナ禍で旅行できない昨今、「ちんすこうが食べたい」と思った人もいるだろう。かつては宮廷菓子だったが、実は家庭でも簡単にできる。クッキー型で抜くもよし、手でコロコロかわいらしく丸めても、食べやすい。(ちんすこうはもともとは丸形だった)
<材料と作り方>一口サイズの丸型ちんすこう約15個分
(1)ラード45gをボウルに入れて常温に戻し、砂糖30g、塩3gを入れてもったりするまで練り合わせる
(2)薄力粉100gを(1)と一緒にさらに練り、ひとまとめにする
(3)15等分して、手のひらでコロコロと転がしながら丸くし、真ん中を指で押してへこませる
(4)天板に並べ、170℃に熱したオーブンで表面にヒビが入るまで約15分~20分焼く
(5)網などの上におき、冷ましたらできあがり
より食感をしっとりさせたければ、成形が難しくはなるが、ラードを少し増やすといい。温かいうちは崩れやすいので、粗熱が取れてから網に移動させる。また、油と砂糖の影響で焦げやすいため、あまりこんがりと焼かないようにするのがコツだ。
ラードがなければ、サラダ油などでもOK(上記レシピの場合だとサラダ油は40g)だが、ラードならではの風味と食感も魅力なので、できれば入手してみてほしい。スーパーの中華調味料コーナーや精肉売り場にあることが多い。
どの塩を使うかによっても、塩ちんすこうの味が変わる。市販されているものは塩の食感が残らないものが多いが、あえて食感を残すために、練り込み用の塩とは別に、フレーク状の塩を上にトッピングするのも手だ。
塩をふりかける際は、冷めてしまうと生地にくっつかないので、温かいうちにふり塩をする。塩は産地や製法によっても味が大きく左右されるので、沖縄県産の塩はもちろん、各地の塩で試してみるとおもしろい。ぜひこの機会に、自分好みの塩ちんすこうを追求してみてほしい。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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