2021/3/18

ほかにはこんな方法も大切

<水分はしっかり!緑茶もいい>

唾液は1日に1~1.5L出るため、水分補給は大切。「体内の水が足りないと、口の中が渇く。水をきちんと飲むだけでも意外と唾液量が増やせる。また、IgAを増やすにはエピガロカテキンが有望だという研究もあるので、水出し緑茶でも」と槻木教授。

<歯みがきやフロスで口の中はキレイに>

「歯周病菌などが、インフルエンザウイルス感染のリスクを高めると考えられている。また、口の中が汚れていると、抗菌効果のある唾液成分がそちらで働くことになってしまう」(槻木教授)。分泌された唾液の本来の抗菌・抗ウイルス作用を落とさないためにも、口の掃除はしっかり行おう。

<ストレッチやヨガ、ヨーグルトでのデータも>

軽い運動を5~10分ほど行うと、安静時より唾液中のIgA濃度が増えたというデータもあるという。「ヨーグルトも有効だと考えている。私自身の研究では、1073R-1という乳酸菌のヨーグルトを使った」と槻木教授。

唾液の不思議 疲れると唾液に2種のヘルペスウイルスが出る

「感染症のなかには、血液や精液、便を介して広がるものもあるが、ウイルスの側に立つと、唾液に出て、感染を広げていくのは、最も効率のいい生存戦略と言える」というのは、東京慈恵会医科大学の近藤一博教授だ。

近藤教授は、ヒトヘルペスウイルス(HHV)が専門。このHHVのうち突発性発疹の原因になるHHV-6と7が、疲労時に唾液中に増えることを突き止めた。

「HHV-6も7も日本人は幼児期にほぼすべての人が感染し、以後、体内にいる。これを潜伏感染という。HHVが再活性化するメカニズムを調べているうちに、疲労との関連がわかった」(近藤教授)

HHV-6は、およそ1週間単位での身体的な疲労で増え、HHV-7は1カ月単位のデスクワークなどの疲労で増える傾向があるという。「どちらのウイルスも、宿主である人の危険をいち早く察知し、逃げようとするのではと考えている」。

さらに、研究は進み、近藤教授は、このHHV-6がうつ病発症に関わると明らかにした。つまり疲れた状態が長期間続くと、うつ病になりかねないというメカニズムの一端といえるだろう。「HHV-6が唾液に出たあと、一部が口から鼻へいき、脳の一部『嗅球(きゅう きゅう)』という部分に再感染。すると、ある物質が増え、それが脳に影響を与えることがわかった。私は、その物質をSITH-1(シスワン)と名づけた」と近藤教授。このSITH-1の存在を裏づける抗体を調べると、うつ病患者の8割にあることがわかったという。今後、薬の開発なども念頭に置いているそうだ。

9週間の訓練を行う自衛隊員55人が対象。訓練前、基礎訓練中、実地訓練、訓練後に、疲労の自覚度合い(疲労度)とHHV-6と7を測定。疲労度は訓練で上昇。6は実地訓練で上がり、訓練後は以前のレベルに戻った。7は、基礎訓練と実地訓練で上がり、訓練後の数値は訓練前より高くなった。(データ:Biochemical and Biophysical Research Communications;478,424e430,2016)

槻木恵一さん
神奈川歯科大学大学院口腔科学講座環境病理学教授。同大学歯学研究科長、同大学副学長。専門分野は口腔病理診断学、唾液腺健康医学、環境病理学など。最近、口腔粘膜から新型コロナウイルスが侵入する可能性があるとする研究を発表。
山本真士さん
花王パーソナルヘルスケア研究所 上席主任研究員 グループリーダー。2001年、花王に入社。以来、ヘルシアウォーターやスパークリングなどの特定保健用食品、およびsonaeウィルバリアシリーズなど数多くの商品の開発に携わる。
近藤一博さん
東京慈恵会医科大学ウイルス学講座教授。大阪大学医学系研究科博士課程修了。日本疲労学会理事、日本ウイルス学会評議員。講座のHPに、『マンガでわかる「最新!疲労・ストレス講座」』を自ら作成。

(取材・文 白澤淳子=編集部、写真 稲垣純也、モデル ソギョン、ヘア&メイク 依田陽子)

[日経ヘルス 2020年10月号の記事を再構成]

日経ヘルス