スタンフォード留学中に一人の日本人研究者と出会った。後に人工知能(AI)研究の第一人者と言われる松尾豊東大教授だ。「機械学習を活用して、選挙の当選予測に関する催しでたまたま松尾先生の話を聴いた。その影響もあり、データ分析を医療に生かせないか」とデジタル技術で医療の課題解決するための起業の道を模索した。しかし、医学界の壁は厚い。

医療データの分析・活用は革新的な医療技術の進化に欠かせないが、患者の個人情報漏洩問題などが横たわる。地方の医師不足が深刻化する中、遠隔医療の必要性を訴える現場の医師の声は多かった。一方で「正しい診断につながる十分な情報を得られない」。「手間がかかる上、そもそもITに不慣れな高齢者は使えない」など保守的な意見も少なくない。松尾教授も「医師会などの理解を得るのは大変。医療分野はAI対応が最も難しい領域の一つだ」と指摘する。

遠隔医療解禁を好機に起業

帰国後、起業を目指しながら、マッキンゼーに入社、医療担当のコンサルタントなどを務めた。後にウェルスナビを起業する元財務官僚の柴山和久さんらリーダー人材がひしめいていた。そしてついに医療のデジタル化に挑むタイミングが来た。

15年、厚労省は遠隔診療を事実上解禁する通達を出した。この年、原さんは4年あまり勤めたマッキンゼーを辞め、マイシンの前身となる情報医療を立ち上げた。18年に同省は「オンライン診療」を保険診療でも正式に実施できるようにした。そして20年のコロナ下の中、初診を含むオンライン診療の恒久化が国の検討課題となった。現在、松尾教授のアドバイスを得ながら、原さんはオンライン診療に加え、AIを活用した医療データ分析サービス事業などに取り組む。

オンライン診療など医療のデジタル化を進める企業家には東大医学部、マッキンゼー出身者が少なくない。武藤さんも在宅医療のほか、インテグリティ・ヘルスケアを起業し、オンライン診療サービスを展開している。メドレーの代表取締役だった豊田剛一郎さんも東大医学部、マッキンゼー出身。マイシンとメドレー、インテグリティがオンライン診療サービス企業の3強といわれる。

いずれの企業家にも共通しているのは医療を支える国が深刻な財政難にある中、良質な医療サービス提供が限界に来ているという危機感。そして課題解決には医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)化が必要不可欠だという認識だ。コロナ下でも大学受験生の医学部人気は衰えを知らない。21年の入試でも国公立大学医学部医学科の平均志願倍率は約4倍、大半の私立大の医学部医学科は20倍を大きく超える。医師でありながら、企業家に。そのスーパーキャリア像は日本の最難関医学部出身者から変わっていきそうだ。

(代慶達也)

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