働き方を変えるプロジェクトを始めたのは、より価値のある新たな仕事を増やしていきたいという思いからだという

報告だけには来なくていい

白河 つまり、権限委譲をなさっていたということでしょうか。

橋本 まさに権限委譲ですね。なぜなら、その話を聞いても聞かなくても、私が判断するような内容ではないわけです。「そうだね。わかった」というだけです。もし仮に私が変なことを言ってしまえば、「社長がこんなことを言っていたぞ」と大ごとになって話がおかしくなってしまうでしょう。無駄な混乱を防ぐためにも、最初から話を聞かなければいいんです。だから「もう来なくていいよ」と。もちろん私の判断が必要な話は聞いて意見もしますが、大抵は現場に任せられるものですから。あと、社長室に報告・相談に来るときには、説明する担当者のほかにもう一人付き添ってくることが多かったんです。何をしているのかというと、私の発言を逐一、メモに書き留めて記録しているんです。これも「書くな」と止めました。「私が言っているのはただの感想だし、すぐに忘れる程度の内容だから、書かなくていい」と。そういう私の態度が社内で口コミとして知れ渡っていくと、ずいぶん雰囲気は変わってきましたね。

白河 ある意味、評価のカルチャーを変えたということですよね。「社長にむやみに報告にいったところで、特に評価はされない。むしろ逆効果らしいぞ」という認識を広げていくという。18年度から始めた「WPIプロジェクト」では評価制度の仕組みも変え、19年度の総労働時間は16年対比で11.6%減(約254時間/年)になったと伺っています。

橋本 WPIプロジェクトを始めたのは、無駄な仕事を減らした先に、より価値のある新たな仕事を増やしていきたいという狙いからです。内向きではなく、お客さま目線で商品開発をしたり、現場の営業職員をよりサポートしたりする業務に、よりエネルギーを注いでいこう。「お客さまを主語にして新しい仕事をどんどん考えなさい。価値ある仕事ならば増やして構わない」とアナウンスしました。同時に、同じ成果を上げてもより短い時間で仕事ができる職員を評価する仕組みをつくりました。いわゆる「生産性評価」の導入です。やはりサラリーマンの最大の関心ごとは、「上司にどう思われるか」ですから。

白河 私が特に注目したのはそこです。働き方改革の理想形はいろいろと論じられますが、結局は評価制度を変えなければ意味がない。評価の仕組みを変えなければ、「早く仕事を切り上げて帰れる人のほうが給料が安くなる」という矛盾が生じてしまいますから。しっかりと評価で返していく点が素晴らしいと思います。

橋本 仕組みは至ってシンプルで、成果・パフォーマンス評価に加味する形で、マイナス2点からプラス2点まで増減する生産性ポイントを加えるというもの。なお、一定の成果を出していなければ、プラスの生産性ポイントはつきません。

生産性評価の仕組み(資料提供:住友生命)

白河 始めてみて不都合は生じましたか?

橋本 不都合というより、不慣れが理由の問い合わせはたくさん来ましたよ。当初は、「早く帰れば生産性は高いのか」と勘違いした管理職もいましたし、「そうじゃなくて、同じ業務でもより短い時間で結果を出せる人を評価してほしい」とその都度説明していきました。「人によって甘辛があるんじゃないか」という声もありました。誤差はどんな制度にも生じるわけで、経験上、新しい制度を導入するときはシンプルな仕組みにして、運用しながら細かい方法を整えていくほうが浸透しやすいんです。重要なのは、基本の考え方をしっかりと示すこと。導入して2年ほどたちましたが、大きな問題なく進んでいると思います。事例が蓄積するほどに制度の細部は固まっていくでしょう。

白河 管理職からすると、遅くまで残って頑張っている部下ってかわいいと感じるものではないですか。長時間労働タイプの方が以前ほど評価されなくなることに、抵抗は出ませんでしたか。

橋本 抵抗はあったと思いますよ。でも、時間をかけて「仕事ができる人」の定義を変えていく必要がある。いい仕事を早くできる人がより評価されて活躍できる環境へと変わっていけば、そういった不満もなくなるはずです。

白河:やはり時間がかかるのですよね。ありがとうございます。

以下、来週公開の後編記事に続きます。後編では管理職の評価、生産性向上のためのコンテスト、働き方改革に対する期待などを引き続き橋本社長に聞きました。

白河桃子
昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院特任教授。東京生まれ、慶応義塾大学文学部卒業。商社、証券会社勤務などを経て2000年ごろから執筆生活に入る。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員、内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員などを務める。著書に「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)、「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)など。

(文:宮本恵理子、写真:吉村永)

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