住友生命保険は2018年度から働き方改革「WPI(ワーク・パフォーマンス・イノベーション)プロジェクト」に取り組んでいる。顧客目線での生産性向上が目的で、人事の評価制度も改正し、生産性評価を導入した。業務での評価が下回っていても、生産性での評価が上回れば、考課で逆転するケースもあるという。橋本雅博社長に狙いを聞いた。
本当に価値ある仕事に集中したい
白河桃子さん(以下敬称略) 橋本社長とは2020年11月に働き方改革の講演でご一緒させていただきまして、その際に伺ったお話、特に「時間あたり生産性の評価」方法に非常に感銘を受けましたので、対談をお願いしました。御社は1907年創業の歴史ある保険会社でもともとは長時間労働体質だったとか。2015年から独自の改革を推進して、働き方が数値と質の両面で変わってきたそうですね。まず、働き方を変えなければと考えたきっかけについて教えてください。
橋本雅博社長(以下敬称略) ご注目いただき、ありがとうございます。働き方改革を始めた一番の動機は、やはり「本当に価値のある仕事に集中できる会社にしたい」という思いです。おっしゃったように、当社も「長時間働いてパフォーマンスを上げる」という時代が長く続いていました。私自身も入社したばかりの若い頃は午後10時まで残業することをなんとも思っていませんでした。しかしながら、「この仕事は何のためにやっているのか?」と考えてみると、相当の無駄があるわけです。例えば、上司を安心させるためだけの報告として社内資料を作成するのに何日も費やしたり、その資料を見た課長が気まぐれで手直ししたことでさらに作業が増え、直した資料が役員によってまたひっくり返されたり。私どもの収入源はお客さまからいただく保険料から成り立つわけですが、果たしてそれに見合った仕事と言えるのかどうか。
白河 その長時間労働の原因は「内向き」の仕事も多かったのでしょうか?
橋本 大半がそうですよ。「お前、よく頑張ったな。俺もよく頑張ったぞ」と、自分たちだけで幸せな気分に浸っている。こういう無駄な仕事のやり方に、私自身が疑問を感じるようになりました。少し変わった職員だったと思いますよ。部長時代は始業ギリギリに出社して、午後6時にはもう席にいない。長くいてもしょうがないから、早く帰っていたんです。
白河 それはすばらしい。仕事以外で何かやりたいことがあったのですか?
橋本 ありましたし、無駄に時間を使って会社にいるよりも、早く帰宅して本を読むなり、好きなことに時間を使うほうが意味があると思っていたんです。だから、そもそも長時間労働に賛同しないタイプでした。こういう考えの人間がたまたま社長になったものだから、働き方改革の流れには喜んで乗っちゃいましょう、というのが本音です。
もう一つの動機としては、やはり優秀な人材を確保するという狙いです。お客さまの多様化に合わせて、より魅力的な商品づくりに取り組んでいかねばなりませんし、育児や介護で時間制約のある職員が働き方を理由に辞めていくことがないように環境を整える必要があります。本当に重要な業務に絞っていかないと、優秀な人材をつなぎ留められなくなる。その危機感もあって、しっかり働き方改革を進めようということになりました。