お手本となる司会ということでは、歌番組では『うたコン』(NHK)の谷原章介さんはすごいと思います。リハーサルをしっかりして、トークも全部決まっているのですが、生放送なので時間が足らなかったり余ったりもあります。そのときの調整が見事です。アドリブのはさみ方もうまくて、本番でリハーサルとはちょっと違った聞き方や振り方をしてくれたりするのも、僕はうれしく感じました。声もいいし、すごく安心感がある司会です。歌手って、歌う前はすごく緊張します。歌う前にしゃべらないといけないときもあるし、実はいろんな緊張や不安を抱えているので、安心感を与えてくれるのはとても大事なこと。僕も歌い手の気持ちがよく分かるので、自分が司会の立場になるときは、経験を生かせればいいなと思っています。

「ミュージカル風に」が得意なわけではないけれど

『プリンスロードVol.7 ~生歌スペシャルライブ~』の司会はミュージカルのジャンルなので、僕にはホームだったとしたら、2月2日に放送があった『幸せ!ボンビーガール』は完全にアウェーでした。地上波のバラエティー番組で、僕を知らない人がたくさん見ていたと思います。その放送回だけのスペシャルMCで、VTRを紹介する振りをミュージカル風に、と台本にあって、番組中でそれが4回ほどありました。具体的にどうするという指示は何もないので、そのつど自分でセリフを考えて、歌いながら紹介しました。ラランドが登場するVTRの振りを、ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』の歌と踊りでやったのも自分のアイデアです。

番組中でも言ったのですが、昔はそういうのが本当に嫌で、打ち合わせの段階で断ったり、どうしてもやらないといけないときは、前の晩から寝ずに考えたりしました。それが今は、その場のノリでできるようになりました。滑ったとしても、僕は芸人さんじゃないし、周りの方がプロなのだから、いかようにも面白くしてくれるだろうと。

実は、2つの番組の収録は同じ日。昼が『幸せ!ボンビーガール』の収録で、夜が『プリンスロードVol.7 ~生歌スペシャルライブ~』の生中継でした。ホームとアフェーのダブルヘッダーでしたが、自分にはどちらも必要だと思っています。ホームの方がやりやすいけど、ホームだけでうまくやれるというのも違うだろう。僕のことをよく知らない人に対して、どう見せるかというのはすごく緊張するし、「ミュージカル風に」が得意なわけでもないけど、やらなければ何も変わらない。それでミュージカルに興味を持ってくれる人が少しでも増えるなら、アウェーも頑張りたいですね。

それぞれ反響も違っていました。地上波のプライムタイムで放送された『幸せ!ボンビーガール』は誰でも見られるから、「偶然見て驚きました」という人が多かったし、CSの『プリンスロードVol.7 ~生歌スペシャルライブ~』はこの番組目当てのミュージカルファンの方がたくさん見てくださいました。どこに向けた放送かによって見ている方は違うし、反響でもそれが伝わってきました。

コンサートツアーは各公演それぞれ違うゲスト

4月4日からは新番組『はやウタ』(NHK)での司会が始まる予定です。ほぼ隔週日曜の早朝に放送される音楽番組で、演歌・歌謡曲からミュージカルまで多彩なジャンルの歌をお届けします。僕は演歌・歌謡曲に詳しいわけではないのですが、逆に視聴者の方と同じ目線で、出てくださる歌手の方にお話を聞く立場なのかなと思っています。地上波で初めての歌番組レギュラー司会なので、とても楽しみです。

そして4月からは僕自身のコンサート『井上芳雄 by MYSELF スペシャルライブ』が始まります。僕は誰かと一緒に歌ったり、しゃべったりするのが好きなので、毎回違うゲストの方に来ていただいて一緒にコラボレーションするのが大きな見どころです。ゲストはミュージカル界の方が多いのですが、大阪公演では声優の梶裕貴君が来てくれます。全国ツアーでは毎回ゲストは1人。東京公演は国際フォーラムホールAと会場が大きいので、ゲストは2人か3人で、ゲスト同士のコラボレーションもあると思います。

ラジオ番組から派生したコンサートなので、ラジオのブースでお話を聞くという設定はコンサートバージョンになっても大事にしたいところ。前回までは、舞台にラジオブースを模したセットをつくって話をしました。人は座って話した方がリラックスすると思うので、今回も普段のラジオトークに近くなる形を考えています。

トークが膨らむだけ膨らんで、いつも3時間を軽く超えてしまっていた僕のコンサート。コロナ禍なので、今回はそういう感じにはできないかもしれませんが、中身は変わらず楽しくて、ぎゅっと濃縮したトークにしたいと思っています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2700円・税別)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第88回は3月6日(土)の予定です。


夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)


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