向田邦子・開高健… 食のエッセー、名文を味わう

食の深みや味わい、可能性を発見できる「食のエッセー」。コロナ禍の今、食べる営み、食材、料理を見つめ直したい。読書と食事がいつもより楽しくなる作品を専門家が選んだ。

■1位 海苔と卵と朝めし 670ポイント
向田邦子 昭和の食卓、料理香り立つ

食や料理に造詣が深い向田邦子の珠玉のエッセーを集めた。食を通じて紡がれる家族や友人との懐かしい記憶や、脚本家として活躍した著者の食にまつわる日常がつづられている。「こころと胃袋に染み渡る名作が満載」(中沢佑さん)、「古き良き昭和が宝箱に入ったような一冊」(浜本茂さん)などと評価された。

表題作は幼いころの朝食の情景を描く。かまどで炊くご飯や長火鉢であぶる海苔(のり)、生卵など昭和期の空気もひしひしと伝わる。「まるで向田家のアルバムを読み返しているような気持ちになる」(梅田さくらさん)

最初に登場する作品は小学校時代を回想した「薩摩揚」。保険会社で働き全国を転々とした父に連れられ、転校を繰り返した著者が鹿児島で過ごした思い出をつづる。つけあげともいわれるさつま揚げが厳格な父や小学校の先生、友人らとの記憶を呼び起こす。鹿児島での生活は作家・脚本家として活動する原点になったともいわれる。

「『ままや』繁昌記」は食へのこだわりを象徴する作品だ。板前になりたかった著者が妹・和子さんを誘って東京・赤坂に小料理店を開いた経緯を語る。女性の社会進出が今ほど盛んでなかった時代に、「おひとりさま」が気軽に入れる店があればとの思いもあった。開店日は客の熱気であふれ返る様子が描かれ、「正直な文章に一気に向田ファンになる」(沢峰子さん)。

今年は著者の没後40年。小料理店は閉店されたが、妹の和子さんは姉の料理を紹介する本などを出版した。

(1)出版社・レーベル 河出書房新社(2)税込み価格 1815円(3)刊行年 2018年(単行本)

■2位 旅行者の朝食 450ポイント
米原万里 うんちくたっぷり

ロシア語の通訳者としても名高い著者の傑作エッセー集。ウオッカなどロシア名物や児童文学、昔話に登場する食べ物などを深い教養や考察とともに論じる。表題はソ連時代に製造されたまずくて有名な缶詰の名前という。

ロシアなどにジャガイモが定着するまで時間がかかった理由をつづる「ジャガイモが根付くまで」。日本の行動原理をおとぎ話に見いだす「『おむすびコロリン』の災難」など誰かに話したくなるうんちくや興味深い切り口が詰まった作品が満載。「食文化について知見が深く引き込まれる」(平田剛三さん)

エッセーの展開も工夫されていて、オチや最後の一文が含蓄(がんちく)に富む作品が多い。「ドキッとさせられたり、しんみりさせられたりする」(沢さん)

(1)文春文庫(2)660円(3)04年(文庫)

■3位 辺境メシ 390ポイント
高野秀行 奇抜な食べ物、独特に表現

世界を回り、ラクダやサルなど衝撃的な食材を使った料理を食べて著した。好奇心旺盛な著者は奇抜な食べ物の味を独特に表現して読者を引き込む。ネパールで食べた水牛の頭蓋骨は辛みと臭いで「暴風味」。タイで食した虫だらけのイタリア料理は「残飯を食べてる虫を食べてる俺」の気分になり食欲が低下したという。

もちろん珍しい食材ながら味はおいしいものも多く登場。「どれも食べてみたくなるのが不思議」(内田俊明さん)。アマゾン産の蛇や豚の生血を使ったあえ物などは美味と紹介する。

食への固定観念に気づかされるなど活字を通じた異文化交流も経験できる。「『ヤバそう』と敬遠せず、ぜひ手にとって」(木幡宏美さん)、「強烈な読書体験になる」(萩原健太さん)

(1)文春文庫(2)990円(3)20年(文庫)

■4位 味なメニュー 370ポイント
平松洋子 読めば食欲がわく

大阪・道頓堀の関東煮や東京・赤羽の「せんべろ」居酒屋、代々木のキーマカリー……。店に出向きメニューを分析しながら料理の魅力やおいしさをつづる。

歴史なども丁寧に取材し店や料理の魅力が最大限に伝わるよう書かれており、ページをめくるうちに食欲が湧いてくる。「平松さんのエッセーは夜中に読むべからず」(藤村結香さん)、「よだれは垂れるわ腹は鳴るわ、引きつけられる料理が満載」(浜本さん)。

名文への評価も高く「著者と食卓を囲んでいるような臨場感がある」と中沢さん。読み応えのある1冊だ。

(1)新潮文庫(2)605円(3)18年(文庫)

■5位 たべるたのしみ 340ポイント
甲斐みのり 本・漫画の紹介も

建築や散歩などをテーマにした本も執筆する著者の食エッセー。家族で役割と大きさを決めて調理し食べた記憶をつづる「日曜日のパンケーキ」など50を超える作品が収録されている。「過去が現在のように生きている」と沢さん。

食の記憶をつづりながら、関係する食べ物にまつわる本や漫画などを紹介してくれることもあり、「本好きにとってはうれしいポイント」(飯田光平さん)。「食への愛情にあふれる文章でおいしさを表現しており、読んだ後は本当におなかがすいてしょうがなくなる」(中沢さん)との声も。

(1)mille books(2)1100円(3)20年(単行本)

■5位 面食い(ジャケグイ) 340ポイント
久住昌之 秀逸なグルメガイド

連続ドラマとしても高い人気を誇る「孤独のグルメ」の原作者が書いた。店の外観は主にイラストで紹介されていて、メニューの一部の写真が載っているページもある。店選びを「勝負」と言い切り、各地の飲食店への入店を店構えなどから決める。「美食を追求する人たちに勇気を与える」(中沢さん)

「店の雰囲気などを楽しめる秀逸なグルメガイド」(平祐子さん)。会計時に天井を長い棒でつついて店主を呼ぶなど独特な店も掲載。店は青森や佐賀など20以上の都道府県に中国・上海と広く「知らない街で無性に外食したくなる」(浜本さん)。

(1)光文社(2)1650円(3)20年(単行本)

ビジネス書などの書評を紹介
注目記事
ビジネス書などの書評を紹介