日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/2/27

安全性と変異株への効果は

 コストはモノクローナル抗体を取り巻く不安の1つにすぎない。安全性の問題は、PROVENTやその他の臨床試験でしっかり監視されることになる。

 その1つが、抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれる厄介な現象だ。抗体がウイルスと結合していないほうの端に、通常はウイルスに感染しない細胞が誤って結合してしまうことがあるのだ。モノクローナル抗体を製造する製薬会社は現在、抗体の端を変化させるなどして、抗体依存性感染増強のリスクを最小限に抑えるための対策を講じている。

 もう1つの大きな懸念は、新型コロナウイルスの新たな変異株に対し、モノクローナル抗体の効果がなくなってしまうのではないかということだ。米国、南アフリカ、中国で行われた最近の研究では、それぞれ1種類のモノクローナル抗体からなるイーライ・リリーと英グラクソ・スミスクライン(GSK)の製品が、新型コロナウイルスの3つの主要な変異株のうちの1つ以上に対して効果がない可能性があることが示唆されている(なお、これらの論文はプレプリントサーバー「bioRxiv」に投稿されたもので、査読はまだ行われていない)。

 一方、リジェネロンの製品は2種類のモノクローナル抗体のカクテルであり、変異株に対しても効果があることを示すデータが得られている。イーライ・リリーとGSKは、自分たちの製品を組み合わせて抗体カクテルとすることで効果が上がるかどうかを試験している。アストラゼネカのモノクローナル抗体が変異株に対してどのような効果を示すかについては、まだデータはない。

 入院患者の緊急治療にモノクローナル抗体を使用していると、それを回避するためにウイルスが進化し、新たな変異株が生じるのではないかと指摘する人もいる。

 しかし、モノクローナル抗体の研究に携わっている科学者の多くは、感染リスクの高い人々にあらかじめモノクローナル抗体を投与していけば、新たな変異株の出現を阻止できるだろうと考えている。

「去年は人口の大部分がこのウイルスに対する免疫を持っていなかったため、免疫不全の人々をはじめ、ウイルスは弱い人々の間を自由に行き来できました」と、米ワシントン大学医学大学院の病理学・免疫学助手であるアリ・エレベディ氏は言う。

 免疫不全の人々の体内では、ウイルスは何週間も複製と変異を続けられるため、新しい変異株を生み出すのにうってつけなのだ。理論的には、免疫機能が低下した人々をより多く守ることで、新たな変異株が生まれるリスクを抑えられる。

 PROVENT臨床試験によって、モノクローナル抗体で免疫不全の人々をより長く守れるかは今後数カ月のうちに明らかになるだろう。もしそうなったら、臨床試験に従事する科学者たちは、標準的な予防の一環としてより多くの患者にモノクローナル抗体を投与できるようになると期待している。

(文 DAVID COX、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年2月8日付]

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