日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/2/27

従来のモノクローナル抗体は製品化するまでに時間がかかり、速いペースで変異するウイルスには向かないとされていた。だが、近年の技術的進歩により、開発に必要な期間は10カ月程度まで短縮され、抗体の構造を工夫することで効果の持続期間も数カ月程度まで伸びた。

ユスチアノフスキー氏は現在、アストラゼネカと共同で、新型コロナウイルスに効果のあるモノクローナル抗体を見つけるためのPROVENTという世界的な臨床試験を主導している。臨床試験では、さまざまな理由から免疫不全の5000人の参加者に、モノクローナル抗体をベースとした抗体カクテルまたはプラセボ(偽薬)を投与する。それから1年間追跡調査を行って、この治療によって新型コロナウイルス感染症を防げるかどうか、その効果がどの程度持続するかを調べる予定だ。

ロングリー氏は、PROVENTの臨床試験が成功すれば、免疫系が衰えてきた高齢者など、ワクチンを接種しても十分な抗体を作れないおそれのある人々も守れるかもしれないと期待する。

実際、イーライ・リリーとリジェネロンは、ワクチンの接種が遅れている地域の高齢者施設の入居者をモノクローナル抗体によって守れないかを検討している。イーライ・リリーは2021年1月下旬に最終治験(第3相臨床試験)のデータを発表し、同社のモノクローナル抗体治療薬バムラニビマブが介護施設で新型コロナウイルス感染症にかかるリスクを80%も下げたことを示した。

価格への不安

現在、がんや自己免疫疾患の治療に使われているモノクローナル抗体はおそろしく高額であることから、価格面で新型コロナウイルス用のモノクローナル抗体に不安を感じる人は多い。しかし、リジェネロンの広報担当者であるアレクサンドラ・ボウイ氏は、「10万ドル(約1050万円)とか、そういうレベルの価格ではありません」と言う。「米国政府との契約では、1回の投与分の価格は2000ドル(約21万円)台です」

とはいえ、ワクチンに比べるとかなり高額であり、世界の多くの国々では手の届かないものになるかもしれない。ちなみに、ファイザーとビオンテックのワクチンは1回20ドル(約2100円)、アストラゼネカのワクチンは1回4ドル(420円)だ。

「モノクローナル抗体は全員に投与するものではありません。安価で費用対効果の高いワクチンの接種を受けられない人のためのものです」とユスチノフスキー氏は言う。「対象者の少なさを考えれば、受け入れられるコストです」

経済状況によってモノクローナル抗体の投与を受けられるかどうかの格差が生じないようにする対策は、すでに取られている。ボウイ氏によると、米国政府はこれまでにリジェネロンに注文した150万回分のモノクローナル抗体を、患者が医療保険に加入しているかどうかにかかわらず、無料で提供することを約束しているという。

現在、モノクローナル抗体は軽症から中等症の入院していない患者の治療に使用されているが、今後、規制当局の承認が下りれば、ワクチンの代わりになる措置になるかもしれない。さらに、製造パートナーであるロシュと協力して、低所得国や中所得国への寄付を実施する予定であるという。

デンマーク、コペンハーゲン大学の感染症内科医であるイェンス・ルンドグレン氏は、製薬会社が低所得国のジェネリック医薬品メーカーと契約を結ぶことも期待している。

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