『ここ倫』山田裕貴 芝居力で戦ってきた自負がある
オファーは基本「断らない」方針で経験を積み、若手俳優のなかでも群を抜いて出演作品数の多い山田裕貴。近年は、2018年にシリーズものの『特捜9』(テレビ朝日系)メンバーに選ばれたほか、朝ドラ『なつぞら』(19年)でヒロインの幼なじみの和菓子屋の息子・雪次郎を好演し、知名度が全国区になった。飛躍のときを経て、20年は1月期に、『SEDAI WARS』『ホームルーム』と、連ドラ2作に同時主演。10月期には『先生を消す方程式。』で狂気の演技を見せ、大きな話題となった。
21年は、新型コロナの影響で延期になっていた、映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』や『東京リベンジャーズ』などが公開に。まずはそれに先駆けて、1月から連ドラ2作品がスタート。『青のSP(スクールポリス)―学校内警察・嶋田隆平―』(フジテレビ系)では、主人公の嶋田(藤原竜也)の相棒となる後輩刑事・三枝役を務め、『ここは今から倫理です。』(NHK総合)では、倫理の教師役で主演している。
「『青のSP』は昨年の10月初旬までに全部撮り終わりました。三枝は、藤原さんふんする先輩刑事に無理難題を押し付けられて、『えーっ!』って言いながらも従うっていうキャラクターです。これが、シリーズで毎年やらせていただいている『特捜9』の、新藤役と設定が似てて。ちょっと『どうしよう……』と思ったんですよね。役回りは一緒でも、違う人間を表現しないといけない。僕、見ている方1人にでも『なんか同じじゃん』って思われたら嫌だと思って。監督には何度も相談させてもらいました。同じ生意気さ加減でも、真面目すぎるからそう見えてしまうのと、物怖じしないヤンチャな感じとでは違うから、そういう微妙な演じ分けを気にしてはいました。
でも実際に撮影に入ってからは、藤原さん演じる嶋田さんのリズムに素直に乗っかったら、すごく面白くて。考えすぎず、生でやっている感覚を大切に、セッションだと思ったほうがうまくいきました。たまたま、『特捜9』と共通のスタッフさんも現場にいたんです。そのスタッフさんが『あ、やっぱり新藤とは違うね』って言ってくれたときは、安心しました」
朝ドラ監督と主演作で再会
「『青のSP』はシリアスな場面が多くて、嶋田さんも淡々と業務をこなすクールなタイプ。だから、三枝が出てきたら、ちょっとホッとできる、笑える時間を作りたくて。"三枝ほっこりタイム"というか。へへ(笑)。藤原さんのセリフ回しや、キャラクターの作り込みの深さはすごくて、やっぱりリスペクトしますね。どんな芝居をしても、藤原さんが返してくれるからこそ、台本にないことも言えたり、三枝として、楽しんでその場にいられました。
『ここは今から倫理です。』は、本当にいい話です。毎話、響く言葉ばかり。最初、マネジャーさんから『裕貴、ちょっとこれ読んでおいて。まだ決まってはいないんだけど』って、原作マンガを渡されて。とにかく面白かったから、『もしまだ分からないんだったら、やりたいです、とお伝えしてください』とお願いしました(笑)。これもご縁で、演出の渡辺哲也監督は、『なつぞら』でご一緒していたんです。
自分はバラエティとかで頑張っちゃうんで、弾けて見られがちですけど、本来は1人で考えることが好きで。だから、倫理教師の高柳には共感してます。素敵な先生になりたいと話す、いじめられっ子の生徒に言う、『じゃあ、あなたはなってください、いじめっ子もいじめられっ子も救える先生に』とか、印象的なセリフが多くて。高柳自身のキャラクターは、何を考えているか分からない感じで、難しいんですけど。魅力的な先生を演じられるので、楽しみです」
同じ教師役でも、20年1月期の『ホームルーム』では、好きな女子生徒をストーキングし、奇行を繰り返す愛田、10月期の『先生を消す方程式。』では、暴力や犯罪行為を何とも思わない副担任・頼田朝日を演じて話題になった。
「『山田裕貴、ヘンタイの役ばかり』みたいに言われますけど、いや全然、2作品しかやってないですよって(笑)。『ホームルーム』も、自分の中では愛田は"愛の人"で、1本筋は通っているんです。
『先生を消す方程式。』の朝日役は、得意分野というか。『やっとこういう役がやれる』と思ったし、僕のフィールドだなって。死んだはずの義経先生(田中圭)が生き返ったり、奇想天外な世界観なので、声色や表情をきちんと計算して、オーバーにはやりました。それがインパクトになったのなら、よかったです。僕の中では、『全部嘘』というテーマで演じていて。いじめられて、誰にも助けてもらえなかったから、『邪魔なヤツは消せばいい』って思いついてしまった、社会が生んだモンスターというか。感情で動かない、中身が空っぽの悪みたいになればいいなと思っていましたが、救いようがなくて。振り切った役は好きですけど、エグい役ではありましたね。
『HiGH&LOW』シリーズ(15年~19年)の村山は、手をつけられないくらいのヤンキーではあったけど、ちゃんと芯のある男だったし。あと『先生を消す方程式。』でキツかったのは、スピンオフドラマ(AbemaTVで配信中の『頼田朝日の方程式。-最凶の授業-』)で、59ページ、2万字のセリフを覚えたこと。記憶力のリミット超えちゃって、あれからいろんなこと忘れちゃってるんですよ(笑)」
自分にしかできない表現を
『HiGH&LOW』での番長・村山役は、シリーズの中でも人気の高いキャラクターに育った。癖のある役も経験してきているが、どう取り組んでいるのか。
「台本を読んで、この作品の世界でこんな人がいたら面白いなっていう感覚で、突き抜けようとは思ってます。『出会ったことはないけど、もしかしたらいるかも』みたいな微妙なラインを攻めるのは、好きかもしれないですね。型にはまらず、独創性を大事に、自分がやる意味、山田裕貴にしかできないことを、みたいなことはいつも考えて。『HiGH&LOW』の村山が、ただケンカが強いだけじゃなくて、お茶目なところもあるキャラになっていったのは、アイデアを出して試したり、アドリブで言ったことを台本に取り入れてもらったりの積み重ねで確立できたんですよね。
『HiGH&LOW』くらい人数がいたら、普通に埋もれるじゃないですか。やっぱり埋もれたくないですよ(笑)。作品の中の役柄でいつも一緒にいた、鈴木貴之君と一ノ瀬ワタルさんは、僕と一緒でエキストラ出身で、3人で『こんなところまで来られたね』『1番のチームにしよう』みたいに話しながら、作っていってました」
20年は30歳になったが、意識の変化はあるのか。また、俳優としてどう成長したいかを聞くと……。
「刑事役だったり、教師役っていうのは年齢があるのかもしれないですね。この1年、ハードスケジュールをこなしてきたので、とにかく報われたいっていうのはあります(笑)。まだ発表になっていない映画の公開もあったりするので。報われなかったら、実力不足ですけど。『神のみぞ知る』じゃなく、『見てくれた人のみぞ知る』ですね。そこで盛り上がってもらえなかったら、今日の取材のテーマの『今年の顔です』ってことになれないんで。お仕事は以前と変わらず、お声をかけていただいたものは『やりましょう』という方針です。だから、ハードスケジュールは僕の責任でもあるんですけどね。
30歳になったのもそうですが、21年は僕、俳優を始めてから10年目に入るんです。恋愛ものとかのカッコいい役でみなさんの心をつかめるタイプでもないし、芝居力で戦ってきた自負はあるので、そこを磨かなければとはずっと思ってます。30歳以降は、残れる人しか残っていけないんだろうなって。気になる同業者は、今活躍している人たち全員です。女優さんも含めて。『みんなすげーな』と思ってます。そこに食い込んでいくために、これまでと変わらず精一杯情熱を注いでやっていきます」
(文 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2021年2月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。