青学駅伝チームのトレーナーが教える 速く走る方法

カラダについてのお悩み、ありませんか? 体調がいまいちよくない、運動で病気を予防したい、スポーツのパフォーマンスを上げたい…。そんなお悩みを、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんが解決します! 今回は、ランニング大会に参加したら遅いタイムだったという人のお悩みに答えます。
初めての大会で同僚より遅いタイムでショック…
40代後半、男性の会社員です。運動はあまり得意なほうではありません。
ちょうど1年ほど前でしょうか。自治体が開催したランニング大会に参加して、10kmのコースを走りました。
きっかけは、運動不足解消のためでした。デスクワーク中心の生活で、40代になってからお腹回りが気になり始め、このままではいけない、と思い立ったのです。
学生時代も含め、運動の経験は乏しかったのですが、1~2カ月かけて準備して大会に出場しました。後半に失速したものの、ちゃんと10kmを完走したうえ、「1時間以内」という目標タイムもギリギリでクリア。最初にしては満足のいく結果でした。
ところが、一緒に出場した同僚は僕より5分も早いタイムだったことを知ってガッカリ。彼も初めての出場で、同じ頃から練習を始めたし、スポーツマンタイプでもないので、「自分は本当に足が遅いんだな」と思い知らされました。
その同僚は、この大会に出たことで、すっかり走ることが楽しくなったようです。「コロナが収まったら、ハーフマラソンに挑戦しよう!」と誘われています。
でも、こちらは足が遅いうえに、10kmを走るので精いっぱい。練習でも10km以上走ったことがなく、まったく自信がありません。
でも、このまま諦めるのも、負けを認めるようで悔しい。
自分のように体力がなく、足が遅い人でも、いいタイムで走れるようになりますか? そのためには、どんな練習をすればいいのでしょうか?
レースを振り返って自分の弱点を探ろう
私はフィジカルトレーナーとして2014年から、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導を担当しているので、こういったランニングのトレーニングについての相談はよく受けます。
相談者の方は、運動経験が少なかったりすることで自信が持てないようですが、大丈夫です。トレーニング次第でずっと速くなれますよ。
今よりも良いタイムを出すために大事なのは、まず自分のウイークポイントを知ることです。大会を振り返り、どこに問題があるのかを解明すると、おのずと「どんなトレーニングをすればいいのか」が見つかります。
というわけで、参加した大会のときのことを思い出してみてください。「後半に失速した」とのことですが、なぜスピードが出せなくなったのでしょうか。
市民ランナーがレースに出て「失速した」と感じるとき、その理由は主に2つあると思います。つまり、「呼吸が苦しくなってしまった」、もしくは、「足が思うように前に出なくなった」です。
呼吸が苦しくなったのであれば、そのウイークポイントは、「心肺機能」です。この場合、心肺に負荷をかけて強化する「インターバルトレーニング」が有効です。
心肺機能を鍛える「インターバルトレーニング」
インターバルトレーニングとは、「スピードを上げて走る」のと「ゆっくり走る」のを繰り返すトレーニング法のこと。一定の速度で走るよりも、「スピードをグンと上げてガクンと下げる」ことを繰り返すことで、より強い負荷が心肺にかかるのです。
スピードを上げて走るといっても、いったいどの程度なのかと思うかもしれません。これは、「主観的運動強度(RPE)」で言うところの「きつい」から「かなりきつい」の範囲に当たります。
主観的運動強度とは、スウェーデンの心理学者であるボルグ博士が考案したもので、運動するときに自分が「きつい」とか「楽である」と主観で感じる強度を、6から20までの数値で表すものです。

インターバルトレーニングでゆっくり走るときは、「楽である」に相当する運動強度にするといいでしょう。ちなみに、多くの人が普段のジョギングで走っているときは、主観的運動強度でいうと、「ややきつい」と感じるペースになります。
そして、「スピードを上げて走る(きつい~かなりきつい)+ゆっくり走る(楽である)」を1セットとして、「4セットはできるけれど、5セット目はどう頑張ってもできない」ような強度の設定で行うと、心肺機能が効率よく強化されます。
例えば、「100mスピードを上げて走り、50mゆっくり走る」を1セットとして、もし5セット目ができてしまうようでしたら、その100mをもっと速く走るか、100mよりも長くするかして調節します。
インターバルトレーニングで大事なのは、すべてのセットでだいたい同じスピード、同じ距離の組み合わせにすることです。一般道で行うなら、信号のない、できるだけ真っすぐな道を見つけて、そこを往復するとやりやすいでしょう。
「筋持久力」を鍛えるなら月に合計80kmは走る
次に、大会のとき、呼吸は苦しくなかったけれども、足が思うように前に出なくなってしまった場合です。これは、足の「筋持久力不足」がウイークポイントです。ですから、先ほどのようなインターバルトレーニングよりも、なるべく距離を走ることが重要になります。
では、どのぐらいの距離を走ると筋持久力がつくのでしょうか。もし、次の目標がハーフマラソンなのであれば、月に合計80~100kmの距離を3カ月走り続ければ十分でしょう。フルマラソンにチャレンジする場合は、それに加えて、3~4週間に1回、30km走を行うといいでしょう。
ただし、走ることが楽しくなって、「走りすぎる」という問題も出てきます。月に200km以上走ると、膝を壊したり、故障したりするリスクがグッと高くなるので注意してください。
「10kmが精いっぱい」と自分で限界を決めていないか?

さて、相談者の方の悩みからは、心肺機能や筋持久力だけでない問題があるような気もします。
それは、「自分は10kmが精いっぱい。練習でも10km以上走ったことがない」という点です。
これは、体は10km以上走れるのに、脳が勝手に「もう無理!」とストップをかけてしまっている状態なのかもしれません。
人間は、限界まで体を動かし続けると死んでしまうため、脳が限界値の手前でストップをかける「防衛システム」が備わっています。心身を限界の近くまで追い込むトレーニングを行っているアスリートに比べると、一般の方は限界のはるか手前で防衛システムが作動し、早い段階で頑張りが利かなくなります。
本当に限界近くまで力を振り絞った人は、ゴールした後、倒れ込んだり、歩くのも困難な状態になったりします。一方、市民ランナーでは、レース中は「苦しい、もう限界だ」と思っていたのに、ゴールした後も意外と元気な様子を見せている人もいます。
相談者の方は、40代後半という年齢からみても、「10kmが限界」なんてあり得ません。10kmが自分の限界と決めつけてしまうと、脳が勝手にストップをかけてしまうのです。
試しに、いつもとは違うコースを、GPSや時計を一切見ずに、走り続けてみてください。そして、「本当にもうこれ以上、走るのは無理だ」と思った地点で、何kmを何分間で走ったのか、を確認してください。恐らく、思っていた以上に長い距離を走っているはずです。
これは筋トレでも同じで、脳の中で勝手に限界を決めてしまうことがあります。私がクライアントに、「バーベルスクワットを20回やりましょう」と促すと、17~18回目で「キツイ! もう無理だ」と言い出す人は多いのですが、「25回やりましょう」とお願いすると、同じ重量なのに多くの人が20回を楽にクリアするのです。
いかに人間が脳の中で勝手に限界を決めているかが分かっていただけたでしょうか。「自分は10kmが精いっぱい」などと諦めずにトレーニングを続け、コロナ禍が過ぎ去ったあかつきには、同僚に差をつけ、最高の形でレースに勝ちましょう。
自分はランニングで速く走れないと思っている人へ…
▼大会を思い返して自分の弱点を探ろう
▼呼吸が苦しくなったのならインターバルトレーニングで心肺機能を強化
▼足が前に出なくなったのなら距離を稼いで筋持久力を強化
▼自分の限界を決めずにトレーニングを続けよう
(まとめ 長島恭子=フリーライター、図版制作 増田真一)
[日経Gooday2021年1月21日付記事を再構成]

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