女王蜂から猫のすりすりまで 動物の多彩なフェロモン

日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/2/3
ナショナルジオグラフィック日本版

ワオキツネザルのオスは、においでメスを魅了する。写真は、マダガスカルのアニャ公園で撮影したワオキツネザルの母子(PHOTOGRAPH BY CYRIL RUOSO, MINDEN PICTURES)

ミツバチの巣の中心に陣取る女王バチは、働きバチの食料調達法から新しい巣の作り方に至るまで、すべてを取り仕切っている。

なぜそんなことができるのだろうか。その秘密は、フェロモンという見えない化学物質にある。フェロモンにはさまざまな情報が含まれており、女王バチの世話をする働きバチたちが巣に行き渡らせる。

フェロモンによる情報は、繁殖の可能性、縄張り、食料を探す場所など多岐にわたり、空中や地面、さらには水の中すら伝わってゆく。

「フェロモンは、放出する側のために進化してきた信号です」と言うのは、フェロモンの進化を研究する英オックスフォード大学の動物学者トリストラム・ワイアット氏だ。

たとえば、ミツバチのフェロモンに含まれる成分には、働きバチが女王にならないように抑制する効果がある。そのため、女王の座が脅かされることはない。

ワイアット氏によれば、これは蚊が刺す動物を探す際に手がかりとするにおいとは意味が異なる。刺される動物は、自分のためにそのにおいを発しているわけではないからだ。

哺乳類のフェロモン

この数十年間で、フェロモンに関する研究が急速に進んだが、科学者は1959年までフェロモンを見つけられなかった。

最初に発見されたのは、メスのカイコガが発するボンビコールという物質だ。その「香水」は、数キロ先まで運ばれ、やがてオスの触角にあるフェロモン受容体に検知される。するとオスは上昇してジグザグに飛び回り、においをたどってメスの元へ向かう。

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においでメスを魅了するワオキツネザル
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