新型コロナウイルスの感染拡大で、生活様式の大幅な変更を余儀なくされた2020年。そんな激動の年が終わり、新たな年を迎えたと思いきや、11都府県を対象に緊急事態宣言が再発令された。発令対象となった首都圏や関西圏はもちろん、全国的にまだしばらくは大変な日々が続きそうだ。
とはいえ、ラーメン業界はたくましい。そんな状況下にあっても、いや、そんな状況下だからこそ「お客さんに少しでも元気を分け与えたい」と、例年よりは少なめながらも、新店が着実にオープンしている。
複数の新店がオープンすると、そこに共通する傾向、いわゆる「トレンド」が見えてくる。
昨年後半から今年にかけてオープンした店舗群からその「トレンド」を紐(ひも)解くと、2つの傾向がうかがえる。(1)出汁(ダシ)のうま味をフィーチャーした(出汁系の)、(2)どことなく懐かしさを感じさせるオーソドックスなラーメン(ネオクラシックラーメン)を提供する店が目に見えて増加しているのが分かる。
そこで、今回は、それらの「トレンド」にズバリ当てはまる2つの新店を紹介したい。まずは東京・恵比寿の『手打親鶏中華そば綾川』、お次は足立区西新井の『麺屋龍』だ。この2店は今後、高い人気を確実に獲得しそうな期待の新星。できれば、今のうちにマークしておきたいところである。
池袋、新宿、高田馬場などと並ぶ都内屈指のラーメン激戦区として名を馳せる恵比寿。そんな激戦区に2020年12月下旬、オープンした。その店の名は『手打親鶏中華そば綾川』。
同店は、飲食業などを営むFF Diningが経営する。親鶏の名産地として知られる香川県綾歌郡綾川町で生まれ育った一団が、東京でラーメン職人と出会い、共同で中華そばを開発。その中華そばを提供する店が、この『綾川』なのだ。
都内で若鶏ではなく、親鶏をスープの素材としたラーメンを提供する店は、数えるほどしかない。全国的にも、親鶏をチャーシューとして用いる岡山県のご当地麺「笠岡ラーメン」など、ラーメン文化にいまだ「親鶏」という素材の使用が根付いていないこともあり、同店は、オープン初日から長蛇の列ができる人気店に。開業から約1ヶ月が経過した今もなお、1時間待ちは当たり前という盛況ぶりには驚く。
店のドアをくぐるとすぐ右手に券売機が鎮座。左上に看板メニュー「手打親鶏中華そば」のボタンがあり、その後に「かき揚げ小丼」「本わさび小丼」「親鶏飯」等のボタンが並ぶ。
提供する麺メニューは「手打親鶏中華そば」のみという潔いラインアップ。例外はあるが、基本的に麺メニューを絞り込んでいる店は、良店である場合が多い。

カウンターのテーブルは畳張り。開店以来、大勢のお客さんが訪れているにもかかわらず、汚れひとつ見当たらない手入れの行き届きよう。ラーメンの味のみならず、店内の清掃の徹底ぶりも垣間見え、このご時世だからなおのこと好感が持てる。
着席してから数分。丁寧な所作で提供される「手打親鶏中華そば」は、スープ、麺ともに異次元の出来栄え。国産親鶏からじっくりと丁寧に出汁を採ったスープは、その奥深い滋味がうま味の稜(りょう)線をくっきりと描く。ひと口啜(すす)った瞬間、ほっぺたが落ちそうになる。スープの表層を覆う鶏油のクオリティーも抜群で、口内で鶏ベースのスープとピタリと一体化し、両者が創出するうま味と香りは、まさに鶏系淡麗の「答え」と言うべき仕上がりといっていい。