駅伝やマラソンなど冬は持久系スポーツのシーズン。年が改まったのを機に、一念発起してランニングなどのスポーツを始める人もいるかもしれない。しかし、気温が低く空気が乾燥するこの時期に過度の運動をすると、インフルエンザや風邪など上気道感染症リスクを高めてしまう場合も。感染リスクを抑えつつ運動を実行するには、やりすぎ、疲労の蓄積に気を付け、免疫機能の維持に役立つ食品を使ったコンディショニングを取り入れたい。
適度な運動では免疫機能が高まる
気温が低下し、空気も乾燥する冬期は、インフルエンザや風邪、そして新型コロナウイルスなどの感染症への警戒が必要だ。昨年の巣ごもりやこの正月で増えた体重を落としたいといった目的で運動を始める人が注意したいのは、結果を急ぐあまりについ過度な運動をすること。これは免疫機能を低下させるリスクになる。「運動で体に大きい負荷をかけるほど、ウイルスや細菌などと戦う免疫力が低下する傾向がある」と、ハイパフォーマンススポーツセンター国立スポーツ科学センタースポーツ研究部研究員の清水和弘さんは言う。
清水さんは、アスリートの免疫機能を研究してきた。「ハードなトレーニングを行うと、筋線維が一時的に破壊され、細胞の修復機能によってより強く再生されるというメリットがある。一方で、高強度の運動を長時間続けるマラソンのような持久系スポーツでは、持続時間が長くなるほど免疫機能は低下し、回復するまでにも時間がかかる。つまり感染症リスクが高くなることが分かってきた」(清水さん)。
適度な運動には免疫機能を高める働きがあることが確認されている。問題なのはハード過ぎたり、やり過ぎたりすることだ。
清水さんは、アスリートではない健康な高齢者24人を運動する群としない群に分けて、運動と免疫の関係について調べた。運動する群は、太ももやお尻の筋肉を鍛えるレジスタンス運動(太ももの前側を鍛える「レッグエクステンション」、お尻の筋肉を鍛える「ヒップアブダクション」などの強すぎない筋トレ)を週2回、12週間実施。その結果、「適度な運動をした高齢者では、免疫の指標となる唾液中のSIgA(分泌型免疫グロブリンA)の分泌速度が30%ほど増加した」(清水さん)[1]。
SIgAとは、感染症の原因となるウイルスや細菌などの病原体の侵入を、鼻腔(びくう)や咽頭などの粘膜表面で防御する抗体のこと。病原体が粘膜を通り抜け、細胞に侵入して増殖を始めると感染が成立するが、SIgAは粘膜を覆う粘液の中で病原体に結合して感染を食い止める。「感染して発熱や下痢が起こるということは、病原体の体内侵入に対して体が抵抗している状態。しかし、体調悪化を伴ってしまう。大会を控えたアスリートにとって重要なのは、病原体の侵入自体を防ぐこと。そのためには、主な侵入口である目や鼻、口でバリアする粘膜免疫を高める必要がある。そこで、粘膜への病原体の侵入を阻むSIgAに着目している」(清水さん)。
特に、せきやくしゃみとともに飛ぶ飛沫や手に付着した病原体が粘膜下に入ることによって感染する風邪やインフルエンザなどの上気道感染症では、粘膜免疫を担うSIgAが正常に分泌されていることが防御のポイントとなる。
「SIgAは加齢とともに減少する。これが、高齢者で感染症罹患(りかん)リスクが高い理由の一つ。週2回の筋トレという適度な運動によってSIgAが増加したことから、適度な運動は加齢による免疫機能低下の抑制に役立つと考えている」(清水さん)。
[1]体力科学,2008,Dec;57(6):895.