田中法政大学教授「コロナ危機はキャリア形成の好機」田中研之輔法政大学キャリアデザイン学部教授(上)

法政大学キャリアデザイン学部教授、プロティアン・キャリア協会代表理事、UC.Berkeley 元客員研究員。専門はキャリア論、組織論。著書は「プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術」(日経BP)など25冊。このほか、民間企業23社の取締役や社外顧問を歴任
法政大学キャリアデザイン学部教授、プロティアン・キャリア協会代表理事、UC.Berkeley 元客員研究員。専門はキャリア論、組織論。著書は「プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術」(日経BP)など25冊。このほか、民間企業23社の取締役や社外顧問を歴任

新型コロナウイルス禍はビジネスパーソンの働き方に大きな影響を与えている。そんな環境下で、個々人はどのように仕事に向き合い、キャリアを積み重ねていけばいいのか。田中研之輔法政大学キャリアデザイン学部教授に聞いた。

新しい時代の幕は開いた

白河桃子さん

白河桃子さん(以下敬称略) 田中先生は「変化の時代を生き抜く、変幻自在に形成するキャリア=プロティアン・キャリア」を提唱されています。2019年に出版された「プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術」(日経BP)は、まさに人生100年時代のキャリアの指南書であると感じました。今日は、コロナ禍以降のプロティアン・キャリアについて、私たちはどう考え、何を備えるべきかを伺わせてください。

田中研之輔さん(以下敬称略) ありがとうございます。『プロティアン』を書いた19年夏の時点ではもちろんコロナの襲来は想定していませんでしたが、図らずもより一層、時代に即したメッセージになったと感じているところです。コロナショックにより出社停止になったり、リモートワークが急速に導入されたり、働く時間と空間の縛りが緩められたことで、「個人のキャリアは組織が育ててくれるものではない。自分自身でオーナーシップを持って展開するものだ」と全世代が気づくきっかけを迎えた。これほどの劇的変化は初めてのことで、僕は歴史的転換だと捉えています。20年は、個人にとっても組織にとっても、働き方を根本から見直す1年だったと思います。

白河 私も働き方のパラダイムシフトが起きたと捉えています。これまでキャリアの再開発が必要と言われてきたミドル層だけでなく、その上の層や下の層にとっても、つまり全員にとってキャリアオーナーシップの考えが求められるようになったということですか。

田中 19年時点でも、すでに日本企業は大きな転換を迎えていました。経団連トップやトヨタの社長が続々と「終身雇用は維持できない」と表明したときには、「ついにパンドラの箱が開いたな」と。

白河 あれは大きな転換でしたよね。その時点で、一部の人たちは危機感を持ってキャリア観を変えていきましたが、20年のコロナショックでより広く大勢の人たちが揺さぶられた。内閣府の意識調査が非常に象徴的でした。テレワーク経験者は「ワークライフバランスの意識に変化があった」と答えた人がテレワーク未経験者と比べて2倍多く、職業選択や副業への関心を持った人も2倍近く多かったそうです。やはり経験が人の意識を変えるのだと実感しました。

田中 20年は仕事とは一体なんなのか、あらためて考える1年でしたよね。仕事は「時間と空間の拘束」という我慢を受け入れる対価として給与という経済的リターンをもらうものと考えていた人が多かった。しかし、その前提を揺さぶる歴史的モーメントが3つ起きたわけです。働き方改革、経団連による制度疲労の表明、そしてコロナショックの3つです。まさに政界・経済界・社会の3方向からキャリアの前提が覆った。新しい時代の幕はすでに開いたと僕は見ています。

白河 おそらくコロナが収束したからといって、元には戻らない。不可逆的なパラダイムシフトですよね。「キャリアのオーナーシップは会社任せでなく自分自身でとっていくのだ」という意識を持つ人は、これからも増えていくし、企業もその流れを促進していくのではないかと思います。

田中 僕もいろいろな企業でヒアリングしているのですが、コミュニケーションのオンライン化によって「これまで発言しなかった人が発言し始めた」という変化をよく聞くんです。この変化は非常に大きい。つまり、これまでさまざまな理由で活躍を諦めかけていた人たちが発言権を手に入れた。同時に、これまで「黙っていても、なんとなく存在感を発揮できたベテランシニア層」にとっては、自分の価値を問い直すきっかけにもなっている。

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女性のライフイベントはキャリアにプラス