決定打ではなかった音や電波

科学者たちは半世紀近くの間、金星の雷を天体望遠鏡で探索したり、雷を示唆する電磁気の発生の有無を探査機でモニタリングしたりしてきた。地球上の雷ならば簡単に検出できるNASAの土星探査機「カッシーニ」は、土星に向かう途中、1990年代後半に金星の近くを2度飛行したが、光をとらえることはなかった。

しかし、もっと古い証拠ならある。1960年代から1980年代にかけて16号まで打ち上げられたソ連の金星探査機または着陸機「ベネラ」のいくつかは、不審な電波や音を記録した。1980年代には米国の金星探査機「パイオニア・ビーナス」が電界における活発なバースト現象を拾った。1990年には木星探査機「ガリレオ」が木星に向かう途中、観測装置に取り付けられた受信機で同様な信号をとらえた。また1990年代半ばには、地上の天体望遠鏡が、金星でのかすかな発光を複数とらえた。

「いずれも完璧と言えるほどの説得力はありませんでした」と、惑星の雷を研究する英ブリストル大学の物理学者カレン・アプリン氏は語る。「他の可能性を排除することが難しかったのです」

2006年から2015年まで金星を周回していた欧州宇宙機関(ESA)の探査機「ビーナス・エクスプレス」は、金星から発せられる「ホイッスラーモード」の電波を多数とらえている。この種の電波をホイッスラー(口笛)と名付けたのは、第1次世界大戦中、無線機から聞こえてくる口笛のような音に気付いたオペレーターたちだった。地球上では、雷がホイッスラーモードの電波を発生させることがある。

しかし、「ホイッスラーモード波は、大気中のあらゆる不安定あるいは乱れた現象によって発生する可能性があります」と、米カリフォルニア大学バークレー校の惑星物理学者シャノン・カリー氏は言う。ホイッスラー波は金星や火星から日常的に発せられており、雷に由来する可能性はあるものの、断言はできない。

百聞は一見にしかず

目に見える光を探すという方法での探索は、ほとんど成果を挙げていない。「雷の源が雲の頂上よりも下にあるため、電波は雲の外に出たとしても、光の多くは遮断されている」可能性はあるとウィルソン氏は話す。

あかつきは金星の雲から逃れたかすかな光をとらえることができる。しかし、軌道を変えるメインエンジンの故障によって2010年に金星の周回軌道に入れず、太陽系を回って2015年に再試行しなければならなかった。2度目の挑戦は成功したものの、ほとんどの期間は金星から遠く離れた場所にいることになる長楕円軌道で妥協せざるを得なかった。

それでもその5年後に、あかつきは光の明滅をとらえた。「同じような光が再び見られなかったことには驚いています」とカリー氏は話す。「一度しか見られていないという事実は気になります」。雷は一度に複数、まとまって発生するものだからだ。しかし、「光が検出されたということ自体は信じています」

どうやら宇宙線によって引き起こされた光ではなさそうだが、あかつきのチームは火球、つまり大気中で爆発した流星だった可能性はあると考えている。とはいえ、火球現象が惑星で発生する確率についての現在の知見からすると、あかつきがとらえた光が火球だった可能性は非常に低い。

今のところ、最もあり得そうな原因は雷だ。

「機材のエラーによって偶然それらしいものが検出された可能性は大変低いでしょう」と話すのは、金星の雷に由来するかもしれない信号を研究している米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の大学院生リチャード・ハート氏だ。今回の光は「金星に雷があるという説を強く支持するものです」

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厚い金星の雲の謎
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