日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/1/17

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この研究からタウンゼンド氏は、隔離前の検査で陰性と判定されると、誤った安心感を与える恐れがあり、感染者を特定するには隔離終了時の検査こそが鍵になると結論付けた。また、7日以降に検査を先延ばしにすることはあまり意味がない。タウンゼンド氏によると、BHPの成功を受けて、他の石油・ガス採掘会社も同様のやり方を採用したという。

帰省を考えている人も、帰省前にできるだけ長い間自主隔離するほか、検査をするなら出発直前まで待つようにとタウンゼンド氏は勧めている。感染してすぐに検査をしても、体内のウイルス量が少なすぎて検出されず、偽陰性が出る恐れがあるためだ。

「命にかかわる手術を受ける前に父に会いたかったけれど、ホテルから電話で話すことしかかなわなかった。病院は、ホテルから車ですぐのところにあったというのに」(PHOTOGRAPH BY JUSTIN JIN)

隔離期間短縮で接触者追跡も容易に

隔離期間を短縮することで、接触者追跡の効果が上がるという予測もある。感染者は、どこへ行ったか、誰と会ったか聞かれても正直に答えようとしないことがある。感染リスクの高い行動をとっていたことを認めたくなかったり、接触した友人や関係者に迷惑をかけたくないという理由からだろう。英国では、現在の検査と接触者追跡システムで、接触者の20%ほどしか特定されていない。しかも、そのほとんどは家庭内接触だった。

英スコットランドにあるセント・アンドリュース大学の感染症専門医ムーグ・セビック氏は、接触者を全員追跡するよりも、感染したりさせたりするリスクが最も高い接触者に焦点を絞ったほうが効果的であると主張する。2次感染の約80%は、20%の感染者から拡大すると言われている。そこでセビック氏は、感染者の接触者を全員追跡するのではなく、感染を最も拡大させやすい人、いわゆるスーパースプレッダーを最優先とすべきだと提案する。

米ハーバード大学医学大学院の計算疫学者マイムナ・マジュムダー氏と博士研究員のアンドリュー・ペロー氏も、セビック氏と同様の考えから、接触者全員へ一律2週間の隔離を求めるのではなく、リスクに基づくアプローチで隔離期間を短縮できるという予測を立てた。隔離の日数は、接触者が感染してそれを他の人へ拡大させる可能性があるかどうかによって決まる。

ペロー氏は、「感染者と接触した人々が発症するかどうかを見守ることです」と解説する。もし発症すれば、元の感染者は他の人にも感染を広げる可能性が高いということになり、その場にいた他の接触者も今後発症する可能性が高くなる。

通常の手続きでは、陽性と判定された人は接触した人々の情報を追跡者に提供する。追跡者はこれらの人々に連絡を取って2週間自主隔離するよう求める。一方、リスクに基づくシステムでは、感染者が参加したイベントでウイルスに暴露したと思われる人全員を追跡する。その中で誰かが症状を示せば、全員に知らせて隔離期間の延長を要請する。もし、2~3日たって誰も発症しなかったら、その後誰かが発症するリスクは低いと考えられ、全員が隔離を早めに終えることができる。

「このアプローチの利点は、最大のスプレッダーを最初に追跡するので、同じ隔離日数でも感染拡大の抑制効果が高いことです」と、ペロー氏は説明する。このほうが接触者の隔離への同意も取り付けやすいし、同じイベントに参加していた誰かが発症したとわかれば、他の人は隔離を途中でやめてしまう傾向が少なくなると、マジュムダー氏は考えている。

コンピューターモデルを使った感染シミュレーションの結果、ペロー氏とマジュムダー氏は、リスクに基づいた隔離措置に、隔離終了時の検査を組み合わせることで、隔離期間を短縮して感染拡大のリスクを低く抑えることができると予測した。以前のCDCガイドラインに従うと、接触者全員が隔離した日数の合計は平均62.1日だったのに対し、リスクに基づく隔離措置では36.1日に短縮される。

次ページでも、ジン氏が中国で撮った自身の隔離の様子を紹介しよう。