工程の途中で、6メートル分の地層の剥ぎ取り標本をとらせてもらった。それをガラス張りの床に埋め込み、いつでも見られるようにする予定。地学教員の山田直樹さんは「都会に住んでいると地層を目にすることがないどころか、自分の足元にどんな土があるかを感じる機会も乏しいですよね。身近なところに好奇心をもつきっかけになればいいなと思っています」と言う。

思惑通り、工事現場の職人さんにインタビューさせてもらった生徒も現れたし、工事現場から出た土をもらってそこに含まれている鉱物を調べた地学部員もいた。「さらにこの学校では、『理科部』として1つではなく、物理、化学、生物、地学のそれぞれの部があります。彼らの自主的な探究活動を誘発する場としても新しい理科館が存分に機能してくれたらうれしいですね」と山田さん。

前庭側から見た完成予定図(学校提供)

最寄りの新大久保駅から来た場合、最初に視界に飛び込んでくるのが新理科館になる。新しい学校の顔である。一方で、正門を入って前庭があるという基本的な構造はそのまま。旧来からのキャンパスの面影はできるだけ残すようにしたと内田さん。内田さんは海城の卒業生でもある。何十年も生徒たちの成長を見守ってきた桜の木も、新校舎の周辺に移植される予定だ。

科学的思考力を備えた「新しい紳士」とは?

海城の教育理念は「リベラルでフェアな精神を持った『新しい紳士』の育成」。新理科館のプロジェクトに関連しては、「科学的思考力を備えた『新しい紳士』の育成」という表現も登場した。

「AIの加速度的発達に代表されるように変化に富んだ将来を生きていく生徒たちには、どのような社会にあっても通用する『新しい学力』を身につけてほしい。そのためには記憶重視の知識獲得型の学力だけではだめで、むしろ生涯にわたって学び続ける姿勢をこの6年間で身につけてほしいと思います」(山田さん、以下同)

その意味で、実験、実習、探究の場として新理科館が担う役割は大きい。一方で海城では、新しいガジェット(創意工夫がこらされた電子機器)を利用した新しい学び方の模索にも余念がない。高校生には一人一台のiPad、中学生には一人一台のMacBookを配布し終わったところ。

「たとえば物理では、コンデンサーの充放電の時定数を求めるためにエクセルで電荷-時間グラフを指数関数でフィッティングする作業を行いました。生物ではiPadを利用した調べ学習を行ったうえで、それを各自がパワーポイントのスライドにまとめて発表しました。私が担当する地学では、iPadで月の写真を撮って、それをもとに月までの距離と月の大きさを推計する方法を考えさせたりしてみました」

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