方向性を示す、組織を整える、権限委譲を進める、模範を示す
――ブラジルで多様性に戸惑いませんでしたか。
「全くありませんでした。ブラジル味の素は16年に創業60周年でしたが、60年間ずっと日本人の社長が務めていました。でも、全従業員の前でブラジル味の素の経営方針と『3年後にこう向かうぞ』というビジョンを話したのは、私だけだったと聞いています」
「長い時間をかけてプランを作って、1時間半話しました。会社の向かっていく方向性を示して、権限を委譲して、自分で模範を示す。やはり自分で汗かかないといけません。ほとんど話せなかったポルトガル語でスピーチするので、資料を作って読む練習もしました。そうしないと伝わらないからです」
「ダイバーシティーが定着している職場では価値観も多様なので、従業員全員に納得してもらうのは大変です。でも、最初に納得してくれれば、仕事に専念してもらえます。日本では逆で、最初の目標設定は楽ですが、その後どうするのかが大変です。そんな違いがあるので、一番苦労しているのが日本です。ダイバーシティーな環境じゃないと、むしろうまくいかないと分かりました。今も変革の最中です」
――企業によって求められるリーダー像は変わりますか。
「組織に合ったリーダーシップのあり方というのはあると思います。オーナー企業はオーナー企業のやり方があります。味の素のように長い歴史の途中でリーダーシップをとるのとは、求められるリーダー像は違うでしょう。ただ、方向性を示す、組織を整える、権限委譲を進める、そして模範を示すという4つの原則は不変じゃないかと思っています」
「リーダーシップを磨くために取り組んでいることがあります。ブラジル子会社の社長の2年間と、日本の味の素社長になった後の2年間で、360度評価を取り入れました。全部で80問ほどあって、すべての設問に『自分はこういう風にやっていこうと思っている』というのを4つの原則に従って書きこんでいます。つまり、自分の仕事について方向性を示して、それに対して上司や同僚、部下に評価してもらうのです。シンプルな4つの原則ですが、これを常に意識することでリーダーシップは磨けると信じています」
1959年奈良県生まれ。82年同志社大文卒、味の素入社。2004年味の素冷凍食品取締役、09年味の素人事部長などを経て、13年ブラジル味の素社長、15年から現職。
(逸見純也)