ミレニアル世代を魅了 米国発のラグジュアリーカード
マス広告を打たず、リアルでの勧誘もせず、会員数を4年で4倍に伸ばしたクレジットカードがある。米国発の「ラグジュアリーカード」だ。コロナ禍でも会員数は増加し、2020年10月には利用額は過去最高に。希少な優待に加え、会員同士のコミュニティーづくりが躍進の理由という。その戦略に迫った。
メタル製の斬新なクレジットカード「ラグジュアリーカード」を展開するLUXURY CARDは、2008年に米国で創業された。日本には16年に上陸し、日本で最初にMastercardのランク最上位「ワールドエリート」を取得している。年会費は、チタンが5万円(税別)、ブラックが10万円(同)、最上級のゴールドが20万円(同)で、決して安価ではないにもかかわらず、ファン層を拡大。一般的にステータスカードホルダーには50代、60代の経営者層が多いといわれる中、実はラグジュアリーカードは19年に入会した会員の半数近くがミレニアル世代(20代中盤から30代後半の層)という特徴を持つ。
アプリを基点に希少価値の高い限定優待を配信
人気を集める理由の1つが、日本独自の特典と、それを会員に素早く伝える専用アプリの充実度だ。
各国共通のサービスは、メタル製カードであること、コンシェルジュサービス、会報誌など基本的なものだけで、それ以外は国ごとの独自サービスとして提供されている。日本では会員限定の「体験型」優待サービスを豊富にそろえているのが特徴だ。「海外に比べれば、日本はまだ現金決済の割合が高く、決済できるだけではなく、利用者のライフスタイルに沿って、生活をより豊かにするソフト面のサービスの充実を意識している」と、ラグジュアリーカード事業開発本部長の菊地望氏は話す。
通年で利用できるものとしては、提携する映画館や美術館の入場が無料になるもの、スポーツカーのカーシェアリング、リムジンサービス、会社でも自宅でもない「サードプレース(第3の場所)」としても使えるカフェの割引優待などがある。また、東京・銀座の完全会員制バーラウンジが利用できる他、「シャングリ・ラ ホテル東京」や「アンダーズ東京」といった五つ星ホテルでの会員限定ドリンク・フードサービスも用意する。それだけではなく、希少性が高い期間(数量)限定の優待が毎月6~7種類ほど提供される。例えば、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」のスイートルーム特別予約枠。通常なら半年に1度の抽選へ応募して予約できるかどうかという入手困難な「プラチナチケット」だが、何とラグジュアリーカードが枠を確保し、販売をしている。
これらの優待サービスは会員専用のスマホアプリで確認でき、新しい優待が登録されるとプッシュ通知が届く。「新規の優待サービスなどの情報は頻繁に更新しており、会員の反応も非常にアクティブ」と、菊地氏は語る。
コロナ禍でも機動的に「在宅向け優待」を拡大
「臨機応変に新しいサービスをタイムリーに出すことを心がけている」(菊地氏)というだけあり、20年春の新型コロナウイルス感染症の拡大による緊急事態宣言中には、いち早く動画ストリーミングサービスやオンラインヨガの優待サービスを提供。また、外出自粛で苦戦する産地や市場を支援する商品も企画した。例えば、豊洲市場を応援する企画として高級食材を販売したところ、1万~5万円のセットが2日間で120万円分も売れた。
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、利用額に対するキャッシュバック率(チタン1%、ブラック1.25%、ゴールド1.5%)の高さも受け、ECでの利用が拡大した。「国外渡航が難しくなり海外決済は減少したが、国内での決済額は緊急事態宣言解除後の20年6月から復調し、10月には決済額が過去最高に達するなど持ち直してきた」(菊地氏)。ニューノーマルな生活にうまく対応したといえそうだ。
会員同士をつなぐコミュニティー機能を拡充
日々、特典をアップデートし、アプリで利用者とつながるだけでなく、カードホルダー同士のコミュニケーションを促す仕組みを積極的に強化しているのも、ラグジュアリーカード躍進の原動力だ。
会員の約6割は、経営者や会社役員、自営業者。「現在は20代で起業をしたり、副業でフリーランス的な働き方をしたりする人が増え、ビジネスの在り方が変化している。個人で事業を始めるときはネットワーキングが重要で、横のつながりを求める人が多い」(菊地氏)。そこで同社では、カードホルダー同士がつながるコミュニティー化を重視している。
現在はコロナ禍で中断しているが、ラグジュアリーカードではオフライン交流を積極的にサポートしてきた。代表的なのが、毎週開催の「ソーシャルアワー」。アプリで開催が告知され、いろいろな五つ星ホテルを会場に、集まった会員同士が交流できるイベントだ。会場によってはラグジュアリーカードのスタッフが同席し、1人で来場者した会員は1人で来場している人の多い席へ案内する、ペアならプライベート空間の席に案内するなど配慮をしながら、ソーシャライズを手伝ってきた。社員が介在することで、コミュニケーションが活性化したり、トラブルを防いだりする効果もある。ソーシャルアワーで知り合った会員同士が親しくなり、そこからビジネスに発展することも珍しくなかったという。
また、会場には優待サービスを提供している企業の担当者やショップのオーナーなども来場するため、利用者と直接コミュニケーションできる場としても効果的だった。
会員が優待を開発、マーケティングにも活用
次に模索したのが、ビジネス面で法人会員をサポートできるサービスの提供だ。今までの法人向けのクレジットカードは、事務用品の割引やレストラン優待、出張で飛行機が遅れたときに補償をする保険など費用面のサポートが定石だった。しかし、新規の顧客を増やしたり売り上げを伸ばしたりといった、収入面でダイレクトに法人をサポートするサービスは極めて珍しいアプローチだ。
そこで20年10月から受け付けを開始したのが、法人ゴールドカード会員限定の「LCオーナーズコミュニティ」。登録すると自社の商品やサービスを活用した限定優待プランを作成でき、他のオフィシャルな優待サービスと同様にアプリで配信され、全国のラグジュアリーカード会員に販売・提供できる。
「ラグジュアリーカード会員はアクティブなアッパー層が多く、新しい商品やサービスに関心が高い」(菊地氏)。会員向けの限定優待で販売すれば、全国に自社の商品やサービスをアピールでき、新規顧客を開拓して売り上げを伸ばしたり、新製品のテスト販売やマーケティングに活用したりできる。一方、他のラグジュアリーカード会員にとっても、限定優待のバリエーションが増えるというメリットがある。
このサービスは、法人ゴールドカード会員なら年に1回、追加費用なしで利用可能(プランの審査あり)。限定プランをより魅力的なものにするために、ラグジュアリーカードが商品内容のブラッシュアップにも協力する。「20年10月に第1回の締め切りを迎えたが、2桁の会員から応募があった」(菊地氏)と手応えを感じている。東京だけでなく、各地からの応募も多く、広島にある企業の会員からは特産のカキを直送する限定プランの提案などもあり、「地方創生にもつながる可能性がある」(菊地氏)と期待は膨らむ。ちなみに、19年末から行ったベータ版では、ある法人が限定商品を出してすぐに、他会員からビジネス連携の問い合わせが来るなど、実ビジネスへの効果も見え始めているという。
従来、クレジットカードはポイント付与や割引優待など、「直接的な還元」で競い合ってきた。だが、ポイント還元は消耗戦であり、優待を提供する企業もその広告効果をシビアに判定するようになっている。どれだけカード会員がアクティブであるか、以前にも増して重視され、その1つの活性化策がコミュニティー機能といえる。クレジットカードの競争軸は今後、変容していきそうだ。
(ライター 根本佳子)
[日経クロストレンド 2020年12月15日の記事を再構成]
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