学び直しの価値を考える

――多くのビジネスパーソンが、働き方の大きな変化に戸惑いました。

『定年消滅時代をどう生きるか』

前田 お正月の休暇に、働き方についてゆっくり考えるなら、『定年消滅時代をどう生きるか』参考記事 「定年がない時代」をサバイバル 複数スキルの磨き方)をおすすめします。コロナの前に書かれた本ですが、コロナ後の状況でこそ使える一冊です。年功序列の崩壊、ジョブ型雇用への移行、雇用流動化など、アップツーデートな問題をコンパクトに整理してあります。日本型雇用が崩壊したときに、私たちはどう生きたらよいのか――。

1つの答えは、スキルを身に付けることです。プログラミングや外国語など新たなスキルの習得はもちろん、「学び直し」、つまりこれまでの知識やスキルを見直す視点も重要です。しかも、何回でも学び直す必要がある。著者の指摘は、一見厳しい内容ばかりと思うかもしれません。でも、著者は、仕事にやりがいや楽しみを見いだすことが豊かさに通じるとも指摘します。自分のキャリアを見つめ直して、元旦に一年の計を立ててみませんか。

安藤 働き方の見直しと同時に、教育のあり方も見直しが求められた年でした。一斉休校やオンライン授業の導入で小中学校が揺れる中、熊本市はいち早くオンラインでの双方向型授業を実現しました。教育ジャーナリストによるルポが『教育委員会が本気出したらスゴかった。』参考記事 オンライン授業を先取り 熊本の小学校が乗り越えた壁)です。

『教育委員会が本気出したらスゴかった。』

読みどころの1つが、現場の教師たちの試行錯誤です。オンラインにかじを切ったのは市長と教育長の英断でした。その理念を実現するために、現場が「学びとは何か」を問い直したところが、本書のハイライトです。

印象に残った例に、国語の授業で、『ごんぎつね』を教材とする場面があります。これまでの対面型授業なら、子供たちに読後の感想を答えさせるのが常道でしょう。しかし、タブレット導入後、ごんぎつねの物語に「BGM」を付けるという授業になりました。すると、子供たちは「このときのごんの気持ちはどんなのだろう?」と、今まで以上に、ごんの心情や、各場面の描写について深く考えるようになったんですね。その姿を見た教師も、あっと思うわけです。テクノロジーを入れることで、教師にも「教育」に対する発見があったのです。コロナ禍は教える側にも学び直しの機会を提供したんですね。

謙虚であることのかっこよさ

前田 コロナ後が顕著ですが、前例を踏襲するとか、モデルケースを研究するという方法が通用しなくなりましたよね。「まずはやってみよう」「まず動いてみる」というのがテーマになりました。

安藤 そういう本が多かったですね。大きな課題に直面して、自分たちは困った。それで、とにかくもがいて工夫した――。こういうコンテンツが、共感を呼びました。

『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?』

前田 代表例が『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?』参考記事 星付きシェフを目覚めさせた サイゼリヤ流のチーム力)ですね。著者本人は「バカ」っていう言葉を使っていますが、「バカの強み」というんでしょうか。要するにプライドを捨てるということです。過去にとらわれない、そのかっこよさが出ています。読みやすくて、話の内容に勢いがあります。本の値段も900円(本体価格)で、単行本なのに新書並です。タイトルは軽いタッチですが、言っていることは本質的です。面白いし、深い。

著者は日本では板前の世界で修行し、イタリアでは星付きのレストランで鍛えられました。背中を見て学べという職人の世界です。今、話題になっている「心理的安全性」とは真逆の世界で育った人が、サイゼリヤの仕事の回し方を体験して感動するんです。年下のバイトの子が「こっちの方が早いですよ」なんて教えてくれる。組織として耳を傾け、効果がありそうなら受け入れて改善する。そういうことを言える環境をつくっている。それが効率にもつながっているわけです。よく読むとチームワーク、リーダーシップ、コーチング、すべてが入っています。

『逆転人生の糸島ブランド戦略』

安藤 値段は意識していませんでしたが、確かにお得ですね(笑)。「優秀ではない主人公」という面では、『逆転人生の糸島ブランド戦略』参考記事 若者が移住したい町 福岡・糸島ブームを生んだ公務員)も面白い。福岡県糸島市はおいしい食べ物やインスタ映えする景観などで、若い人を中心に人気の観光スポットになっているんです。今年のひらめきブックレビューの中では、最も読まれた記事ベスト3に入っています。著者は最初の大学を中退して、市役所に就職しました。そこで、大卒資格がないことにコンプレックスを持ちながら働きますが、一念発起、大学院で経営学修士(MBA)に挑みます。そこで得た知識を使って、糸島ブームをけん引していくんですね。

一見すると、「MBA取っている公務員だからすごいことできたんでしょ」という感じを与えるかもしれません。でも違います。著者は「公務員がビジネスパーソンのスキル学んでもしょうがない」という風には考えなかった。糸島のために、自分の足りない力を広げるために手段を問わなかったんですね。きっとMBAホルダーとして糸島市役所に就職していたら活躍しなかったんだろうな、とも思います。

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