えどもんど店主の猪又氏は、東京のラーメン界においても指折りのすご腕職人のひとり

スープの雫(しずく)が味蕾に触れた瞬間、各種素材から抽出された成分が、ひとつの大きなうま味の束と化し、味覚中枢を心地好く刺激。まさに、店主が抱くイメージどおりの仕上がりになっているのが印象的だ。

G系ラーメンのスープは、とかく、うま味が押し付けがましく、終盤に向かうにつれて、けん引力が衰えていく場合が多いが、この1杯に関しては、そんな心配は無用。麺を啜(すす)り終えた後でさえ、音を立てて飲み干してしまいたくなるほどスープの完成度が高い。

スープとタッグを組む「脂」の活躍ぶりも、特筆に値する。上質な甘みをたっぷり蓄えた脂を厳選していることで、スープの素材感を一層際立たせ、コクとキレとの両立を図ることに成功している。

このスープに合わせているのは、太めの自家製平打ち縮れ麺。茹(ゆ)でムラが生じないよう巨大な釜を用い、麺肌に傷が付かないよう平ざるで麺上げする。「スープとのバランスに徹底的にこだわった麺です」との店主の言葉どおり、スープとの相性は、まるで水魚が交わるがごとし。

店の営業が軌道に乗るまで、メニューは「ラーメン」とそのバリエーションのみ

麺自体のクオリティーも抜群だ。不規則な縮れが絶妙な塩梅(あんばい)でスープを絡め取り、ワシっとした独特の食感が味覚のみならず触覚をも恍惚(こうこつ)の境地へと誘う。デフォルトで300g(通常のラーメンの2倍強)に及ぶ麺量も、少なく感じてしまうほどだ。

「屋号の『えどもんど』は、カプコンの人気ゲーム『ストリートファイター』のキャラクター・エドモンド本田から拝借させていただきました。たくさん食べる力士をイメージして」と笑う店主。そんな話を聞きながら麺を啜っていると、いつの間にやら丼が空っぽに。店を出る頃には、すっかり『えどもんど』の虜(とりこ)となっていた。

(ラーメン官僚 田中一明)

田中一明
1972年11月生まれ。高校在学中に初めてラーメン専門店を訪れ、ラーメンに魅せられる。大学在学中の1995年から、本格的な食べ歩きを開始。現在までに食べたラーメンの杯数は1万4000を超える。全国各地のラーメン事情に精通。ライフワークは隠れた名店の発掘。中央官庁に勤務している。