通常のPCR検査で再感染者を洗い出すことはできない。それには、患者の病歴と遺伝子解析の両方が必要だ。査読前論文を投稿するサイト「MedRxiv」に20年9月28日付で発表されたカタールの調査では、患者の病歴を基に243例が再感染の疑いありと特定されたが、それを証明するのに十分な遺伝物質が残されていたのはわずか4例だけだった。
再感染かどうかを知るには、検査手順を統一し、検体を長期間保存するように体制を整えなければならない。そこで、米疾病対策センター(CDC)は10月下旬になって、再感染の「判断基準」に関する新たなガイドラインを作成した。
ガイドラインでは、再感染が疑われるケースが発覚した場合、その地域の保健当局は遺伝子解析ができる研究室へ検体を送るよう勧められている。また、詳しい症状の記録と、最初の感染から再感染の疑いが判明するまでどれくらいの期間が空いていたかの報告も求められる。
この期間が、新型コロナウイルスに対する免疫がどれくらい持続するのかを知る重要な手がかりとなる。
季節性コロナは6~9カ月後にも再感染
人々が元の生活へ戻れるかどうかは、新型コロナへの免疫力の強さやその持続期間にかかっている。感染者がいかにして回復するのか、パンデミックを抑え込むためにどれほどの頻度でワクチンを接種すべきなのか、そしてソーシャルディスタンスは今後も続けるべきかなどが、それによって決まる。
しかし、どんな病気でもいえることだが、免疫が持続するかどうかを証明するには時間がかかる。新型コロナウイルスに関しては、専門家は他のヒトコロナウイルスの研究から再感染リスクを推測しようとしてきた。
たとえば20年9月14日付の学術誌「Nature Medicine」に発表された研究によると、4種の季節性コロナウイルスでは、12カ月後に再感染するケースが最も多かったが、早ければ6~9カ月後には再感染することもあるという。新型コロナウイルスにもこれがそのまま当てはまるかはわからない。季節性コロナウイルスは以前から存在し、人間もウイルスも時間をかけて互いに適応してきたためだ。
一般に免疫が低下するのは、特定のウイルスに対する抗体がなくなるせいであると、グルーバー氏はみている。病原体が侵入すると、免疫系によって抗体が作られ、細胞への感染を防いだり、毒素を中和したり、あるいは将来の感染も防ぐことができると広く考えられている。
ただし、抗体はすぐにできるわけではない。20年4月29日付で「Nature Medicine」に発表された調査では、新型コロナウイルスに感染すると、発症から2週間後までに抗体ができる人はおよそ95%に上ることが示されている。
グルーバー氏は、この抗体が時とともに減少し、再び感染することはあるかもしれないが、それは数年か数十年先の話だろうという。むしろ、一部の人は感染しても十分に抗体を作れなかった可能性の方が高い。
33歳の香港に住む男性の場合も恐らくそうだろう。この男性は3月に発症した後、8月に再び感染が発覚したが、この時は無症状だった。
だが、症状がなくても他の人に感染を広げることはある。グルーバー氏は、現時点で再感染した人の多くは、免疫系が弱いのではないかとみている。
さらに謎なのは、新型コロナに対する免疫自体は実は強固だという研究が最近になって出てきている点だ。20年10月27日付で「MedRxiv」に発表された、英国で36万5000人を対象に行われた予備的な研究など、新型コロナの抗体レベルが感染から2カ月以内に下がったことを示す研究結果がある一方、だからといって免疫が失われたわけではないと主張する別の研究もある。