日本のHPVワクチン接種率は極めて低い

現在日本では、2価または4価のHPVワクチンが定期接種に組み込まれているものの、接種率は極めて低い水準にとどまっています。2018年の国内での接種状況を見ると、3回の接種を完了していたのは、接種対象となる年齢の女性のうちの0.8%でした。

日本におけるHPVワクチンの定期接種は、小学校6年生から高校1年生相当までの女子を対象に、2013年4月に始まりました。しかし、そのわずか2カ月半後に、厚生労働省は「積極的な接種勧奨の差し控え」を決定しました。一部の接種者に、ワクチンとの因果関係が否定できない持続的な痛みなどがみられ、接種対象者や保護者などの間で不安が広がったためです。以降、日本では、接種者に現れた症状とワクチンとの因果関係は明らかにならないまま、HPVワクチンは、「定期接種に指定されていながら、積極的な接種の呼びかけはほぼ行われない」という状況が続いています。

一方で、世界の状況を見ると、2019年12月の時点で124の国と地域が、HPVワクチンを国民のための予防接種プログラム(日本における定期接種と同様の扱い)に組み入れています。HPVワクチンが世界で初めて承認を獲得した日以来、2億7000万回分のワクチンが世界各国に向けて出荷されました。これは、世界では、HPVワクチンの利益はリスクを大きく上回ると広く見なされていることを意味します。

ワクチンと接種後の慢性的な疲労や痛みは無関係とする報告も

HPVワクチンの安全性に関する懸念が接種率の上昇を妨げている国は、日本以外にもあります。そうした国の1つがデンマークです。そのデンマークから最近、4価HPVワクチンの接種と、接種後に見られた慢性疲労や長期間持続する痛みとの間に因果関係はないとする研究結果が英国のBMJ誌に発表されました[注3]

報告を行ったのは、デンマークのStatens Serum InstitutのAnders Hviid氏らです。同氏らは、デンマーク国民の医療記録データベースなどから、2007年から2016年の期間に10歳から44歳だったデンマーク生まれの女性137万5737人の情報を収集し、HPVワクチン接種後に発症する可能性があると考えられている、自律神経障害を特徴とする疾患(慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群、体位性頻脈症候群)と、4価のHPVワクチンの関係を検討しました。

追跡期間中にこれら3つの疾患のいずれかの診断を受けた女性は869人(10万人・年当たりの発症率は8.21)でした。ワクチン接種後1年以内の「リスク期間」における発症率と、それ以外の期間の発症率を比較したところ、「リスク期間」における有意な増加は見られませんでした(発症率比は0.99)。著者らは、「4価HPVワクチンの接種と、自律神経障害に関連する疾患の間に因果関係があるという仮説を支持するデータは得られず、接種後に自律神経障害関連の疾患を発症したとしても、全くの偶然によると見なされる」と結論しています。

[注3]Hviid A, et al. BMJ. 2020;370:m2930. Published online 2 September 2020.

子宮頸がん死亡を大幅に減らすためのWHOの計画

HPVワクチンにはリスクを大きく上回る利益があると確信しているWHO(世界保健機関)は、低所得国と低中所得国を対象として、HPVワクチンを重要な柱の一つに据えた子宮頸がん撲滅プログラムを推進しています。WHOが目指すのは「90-70-90トリプル介入戦略」と銘打ったプログラムの普及で、HPVワクチンの接種率を90%まで上昇させ、生涯に2度(35歳時点と45歳時点)子宮頸がん検診を受ける女性の割合を70%まで高め、前がん状態以上の患者の90%に適切な治療を実施する、というものです。

このプログラムを推進すれば、今後10年間に、対象国における子宮頸がんによる死亡率は3分の1に減少し、目標が達成できれば、2120年までに78の低所得国と低中所得国における子宮頸がん死亡率は99%低下し、6200万人の女性の命が救えると推定されています[注4]

日本は高所得国に分類され、子宮頸がん治療のレベルは世界有数といえるでしょう。しかし、子宮頸がん検診を受ける女性の割合は、先進国の中では低く、50%未満です。さらに、HPVワクチンの接種率は1%に満たない状態が続いています。この状態が続けば、近い将来、日本の子宮頸がん死亡率が、WHOの強力な支援を受ける低所得国と低中所得国よりも高いことに驚く日が来るかもしれません。

[注4]Canfell K, et al. Lancet. 2020;395:591-603. Published online 30 January 2020.

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