「素泊まり」でご当地グルメ マリオットと積水ハウス

日経クロストレンド

2020年10月9日にオープンした「フェアフィールド・バイ・マリオット・岐阜郡上」。道の駅「古今伝授の里やまと」の真裏で徒歩1分の距離にある。客室は87室
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米ホテル大手のマリオット・インターナショナルと積水ハウスが道の駅に隣接するホテル「フェアフィールド・バイ・マリオット」の全国展開をスタート。最大の特徴は「素泊まり専用」であること。狙いは「地域を渡り歩く」という新たな旅のスタイルを提案し、地域活性化に貢献するためだという。

フェアフィールド・バイ・マリオットは2020年10月に栃木、岐阜、三重、京都の4府県で6施設計約450室を開業した。25道府県の自治体、36社のパートナー企業と連携し、25年までに約3000室を順次開業していく計画だ。

最大の特徴はレストラン機能がなく、素泊まり専用であること。これは、事業のコンセプトである新しい旅のスタイル「TRIP BASE STYLE」、そして地域活性化を実現するために必然的な形だったという。

「地域を渡り歩く拠点として目的を定めずに知られざる魅力スポットを探索してもらい、地域観光の活性化を図るプロジェクトとして拡大していきたい」と言うのはフェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅プロジェクトマーケティング部の濱口裕美子部長。

道の駅にはご当地グルメや地域の特産品が必ずある。そして当然、周辺への移動もしやすい。ホテル内に飲食店がないので、食事は道の駅や近隣の飲食店を利用したり、食材を購入してホテルで調理してもらったりするなど、ホテル外での消費を促す。

比較的近いエリアに複数のホテルを開業したのも、道の駅のあるエリアを宿泊しながら移動するスタイルを提案する狙いがある。例えば、岐阜県内では美濃加茂市、美濃市、郡上市にそれぞれ10月上旬に開業しているが、3施設は車で1時間程度の圏内に位置する。1カ所にとどまるのではなく少しずつ移動しながら各地の食や文化に触れる、そんな「渡り歩く旅」を想定している。

実際に「フェアフィールド・バイ・マリオット・岐阜郡上」に宿泊した。客室は一般的な個人住宅にも相通じるシンプルかつ落ち着いた雰囲気で、アメニティー類も一通りそろっており、ラウンジにはコワーキングスペースやライブラリースペースがある。全体的にシンプルな造りだがチープさを感じることはなく、十分にくつろいで過ごすことができた。

レストランを含む温泉施設が21時半まで営業しているおかげで、夜間の過ごし方に困ることもなかった。地元農家が収穫物を持ち寄る朝市もあり、ホテルの共用エリアでは道の駅で購入した総菜を温めて食べることも可能だ。道の駅によっては夕方で営業終了する施設もあるので、周辺施設の営業時間などをあらかじめ調べておくことが満足度を高めるポイントになりそうだ。

また、「朝食ボックスの共同開発などお客様に満足いただける要素を拡大するべく取り組んでいる」(濱口部長)といい、今後はより道の駅ホテルらしい食事やサービスの選択肢も期待できそうだ。

客室はツインとキングがある
バスタブはなくシャワーのみ。ドライヤー、歯ブラシ、バスタオル、タオルなどはあるので飛び込み利用でも不便はない
ラウンジにはコワーキングスペース、簡易キッチンもある
共用エリアにはシンク、コーヒーメーカー、トースター、電子レンジ、冷蔵庫がある
ラウンジからテラスにも出られる
フロントのしつらえも至ってシンプル。マリオットでは当たり前の出迎えや荷物の持ち運びといったサービスはない。フロント横の売店はキャッシュレスで、PayPayか交通系ICカードで商品を購入する

住宅購入者のために「持続的に魅力ある町」をつくる

積水ハウスの狙いはより遠大だ。「ホテルビジネスとしての成功よりも、日本各地が持続的に魅力的な町として発展することに貢献したいという思いが最大の理由」と言うのは、積水ハウス開発事業部・道の駅プロジェクトの渡部賢室長。ザ・リッツカールトン京都をはじめラグジュアリーホテルも数々手がける同社だが、全国で個人住宅を造ってきたハウスメーカーだからこその意識が根底にあったという。

「個人住宅のお客様は、その町が好きだからここに家を建てたいという思いが強い。そこで、地域が元気であり続けるためにも、活性化のために重要な産業である観光のシンボルとなる道の駅を、地元で愛され、観光客にとってもより利便性の高い場所にしたいと考えた」と渡部室長。マリオットや積水ハウスにとっては、利用者や地元の人に安心感のあるブランドとして認知してもらえるメリットにつながるという。

地元の期待も大きい。「道の駅の利用だけでなく、地域全体への波及効果も期待している」と言うのは、道の駅「古今伝授の里やまと」を運営する郡上大和総合開発の出崎善久経営管理部長。ホテル宿泊者に地域内でのアクティビティーへの参加を促すために、スキーシーズンには道の駅とスキー場を結ぶシャトルバスの運行を予定しているという。

道の駅「古今伝授の里やまと」(岐阜県郡上市)は1999年にオープンし、年間約60万人が訪れる。夏の郡上おどりで知られる郡上八幡まで車で15分、30~40分圏内にスキー場もあり、四季を通してアウトドアアクティビティーを楽しめる。ホテル開業に合わせて12月からは近隣のスキー場へのシャトルバスも運行する予定
朝市は地元の生産者400軒が登録する
日帰り温泉施設「やまと温泉やすらぎ館」はレストランも含めて21時半まで営業
飲食施設は複数あり、和食、洋食、郷土料理など幅広い
その土地ならではの郷土料理も食べられる。写真は「おふくろの味 安食里」の五平餅とけいちゃん(地味噌仕立ての鶏焼き肉)

欧米型の旅スタイルはニューノーマルの時代に浸透するか

地域を渡り歩く旅のスタイルは欧米では一般的だという。このプロジェクトも、東京、富士山、京都など主要な国内観光地を経験済みのインバウンド(外国人観光客)にディープな旅を提案することが狙いの1つだった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大でインバウンド需要がしばらく見込めない中、当面はファミリーやアクティブシニア、女子旅やシングル旅など国内旅行者を幅広くターゲットとしていくという。

コロナ禍以後は旅の楽しみ方も変化し、身近な場所の隠れた魅力に着目するマイクロツーリズムが推奨され、マイカー旅やワーケーションのニーズも高まっている。この流れは道の駅ホテルのスタイルにマッチしており、ネットワークが今後広がっていけば、道の駅を拠点とするローカル旅が旅行の1つの形になりそうだ。

(ライター 大竹敏之)

[日経クロストレンド 2020年11月26日の記事を再構成]

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