気候変動、外来種…経済だけではない米・五大湖の危機

2020/12/6
ナショナルジオグラフィック日本版

ミシガン湖:米国インディアナ州のホワイティングやゲーリーなど、湖の南端沿いの都市はかつて鉄鋼生産で栄えた。外国との競争に加え、米経済の脱重工業化が進んだため、この地域の経済は衰退し、2000年以降ゲーリーの人口は激減してきた。6点の画像を組み合わせたパノラマ(PHOTOGRAPH BY KEITH LADZINSKI)

米ミネソタ州、ウィスコンシン州、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルベニア州――いわゆる「ラストベルト(さびた工業地帯)」であり、今秋の米大統領選で激しく候補者が争った地だ。実は上記の州にはもう一つ共通することがある。いわゆる北米の五大湖を臨む州なのだ。ナショナル ジオグラフィック12月号では、近年、気候変動や汚染、外来種に脅かされる五大湖の危機に迫っている。

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五大湖は、北米の地表にある淡水の84%をたたえ、淡水の水系では世界最大の規模を誇る。

スペリオル湖、ヒューロン湖、ミシガン湖、エリー湖、オンタリオ湖から成る五大湖は、石油や天然ガス、石炭とは比べものにならないほど大きな価値をもつ、北米大陸の最も貴重な天然資源と言っていい。

北米大陸にある大規模な地形のなかで、五大湖は比較的新しく登場した「新入り」だ。この湖群は、北米で厚さ何キロもの氷河が今の米国カンザス州南部から北極まで延びていた最終氷期の置き土産なのである。1万1000年前に氷河が後退し始めると、氷河の浸食作用で形成された盆地に水がたまり、五大湖が生まれた。

五つの湖の水の総量は2万3000立方キロメートル近くあり、世界の地表にある淡水の20%以上、北米大陸の地表淡水の84%を占める。

米国人とカナダ人合わせて、ほぼ4000万人が五大湖流域で暮らす。五大湖の水を飲み、五大湖で魚を捕り、五大湖を経由して物資を運び、湖岸で農業を営んでいる。この地域の人々が働く都市も、五大湖がなければ存在しなかっただろう。そして言うまでもなく、人間の活動は汚染をもたらす。人間が持ち込んだ外来種は五大湖の生態系を恒久的に変えた。さらには、今も続く温暖化ガスの排出で天候まで変わり、五大湖流域の広大な一帯がたびたび激しい嵐に見舞われるようになった。

スペリオル湖岸でオンタリオ州サンダーベイに次いで2番目に大きな都市、人口8万6000人のダルースは、「500年に1度の大嵐」といわれた2012年の嵐をはじめ、この8年間で激しい嵐に次々と襲われた。まだ復興の道半ばにある。工事を監督するマイケル・ルボーが湖岸地域を案内してくれた。2018年、水位が高かった湖に猛烈な嵐が3度も襲来し、広範囲にわたって洪水の被害を受けた地域だ。

2016年には嵐で上水道施設が停電し、街があと数時間で断水する事態となった。中心部に面した湖岸を、ルボーは心配そうに見た。そこでは、近くの採石場から運ばれた6万9000トンの石を使って護岸工事が行われている。「採石場の石はすでにあらかた採り尽くしたと聞いています。過去3回の大嵐で3000万ドル(約32億円)近い工費を使う羽目になりました。財政に余裕のない小さな都市にとっては大打撃です。今は予算が許す限り良い施設を建設しようとしていますが、今後もこうした嵐が繰り返されるか、もっと激しくなるかもしれません。そうしたら、元の生活には戻れないでしょう。でも誰もそれをわかってくれません」

今後は、都市に大打撃を与える嵐が毎年のように襲来し、多額の費用負担を強いられる事態が予想される。大気の上層を西から東に吹くジェット気流が、地球温暖化に伴って不安定化している。ジェット気流を駆動する中緯度地方と高緯度地方の気温の差が縮まり、気流が弱まっているのだ。

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緑色に染まる湖
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