リアルとネットの融合

最近になって、中国のデジタルビジネスは新しい段階に入ったと著者は見ています。BATが相次いで創業した2000年頃に始まった第1ラウンドでは、消費者の「集客」をめぐる争奪戦が繰り広げられました。規模拡大の競争です。その後、ネット人口そのものが頭打ちとなったことで、4~5年前から第2ラウンドに移行しはじめました。「デジタル技術を活用して、パートナー企業の効率化や低コスト化、収益の向上を後押しする」という戦略に重点を移す動きが広がったのです。

この動きの柱の一つがネットとリアルの融合です。ここではアリババ集団が中国全土で店舗展開する生鮮食品スーパーの「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」を紹介しましょう。事業コンセプトは「オンラインとオフラインの一体運営」。店頭で買い物ができることに加え、店舗に行かなくてもアプリを使えば店舗内にあるすべての商品の注文が可能となっています。店舗から3キロ以内の距離なら、注文してから30分以内に自宅などに配達してくれます。店舗で実物を「体験」してもらったうえで、日常的な買い物はネット上で済ませられるようにするハイブリッド型のサービスです。

盒馬鮮生の顧客のメインターゲットは25歳から45歳までの女性という。価格よりも商品やサービスの質を重視し「スピード」を求める層である。中国の女性は結婚、出産後も働き続ける人が多く、忙しい。これまでなら仕事帰りに野菜や肉、魚を買って、帰宅後に調理していたが、盒馬鮮生を利用することで、退社時にネットで注文して帰宅時に配達を受け取ることが可能になった。
筆者の知人でも、盒馬鮮生を利用している人は多い。消費者の利便性を高めたという意味では、これもれっきとしたイノベーションだろう。上海、北京などの大都市では、盒馬鮮生のデリバリー対象エリアの不動産価格が上昇する傾向すらあるという。
オフライン(リアル)とオンライン(ネット)の、それぞれの強みをシームレスに融合したビジネスモデルを設計し、実行する――。これがアリババのニューリテールの本質である。
(第9章 ネットとリアルの融合 292ページ)

日本企業にチャンスあり

第2ラウンドでは、BATを追随する新興企業が相次ぎ台頭しています。動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」で知られ、AIを用いたニュースアプリ「今日頭条」を展開する北京字節跳動科技(バイトダンス)や、配車アプリの滴滴出行(ディディ)、生活総合プラットフォームの美団点評が代表格です。この3社は頭文字をとってTMDと呼ばれます。第4章は「BATからTMD」への勢力図の移行を解説しました。新勢力に共通する特徴の一つは消費者の便益を高めて、企業(供給サイド)も利益を出すビジネスモデル。両サイドの「ネットワーク効果」を働かせているのです。

ここで、3社の代表的なサービスの概要を紹介します。ネットワーク効果のイメージをつかんでいただければと思います。

◆今日頭条(バイトダンス)
コンテンツ制作者がマネタイズできるように、頭条小店(ショップ)、ライブ配信決済ツールの拡充に力を入れている。コンテンツを見る側を楽しませるだけでなく、制作者も儲かる仕組みを作り上げている。
◆美団点評
フードデリバリーやレストランを対象にした評価サイト運営で消費者との接点を保ちつつ、飲食店向けのネット決済や経営管理システムの導入支援にも注力。
◆滴滴出行
消費者の利便性や安心の仕組みを提供しつつ、配車アルゴリズムにより運転手に効率的に儲けてもらうことも両立。
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ビジネス書などの書評を紹介