降格されて気づいた、仕組み化の必要性

降格はショックだったが、これまでの仕事のやり方を根本から見つめ直す機会にもなった。新しい上司は猪尾氏に向かってこう言った。

「自分にしかできないことをやるな」

それまでの「自分らしいこと、自分にしかできないことをやらねば」という考え方とは真逆のアドバイスだった。

「その上司は、『自分にしかできないこと』にこだわると、仕事の仕方が属人化し、仕組み化ができないというんです。自分一人が頑張っても、そのノウハウが共有されなければ、全体としての業績に結びつかないだろうと。そうだったのか、と頭を殴られたような衝撃を受けました」

属人的な仕事のやり方を、上司は戦時中の日本の「竹やり作戦」に例えた。どんなに竹やりの技術を磨いても、米国の大型爆撃機や機関銃を持った米兵に勝てるはずがない。そう言われて腑(ふ)に落ちた。

上司は毎日のように組織化・仕組み化の必要性を指摘し、自分自身も現場に降りてメンバーと一緒に手足を動かしてくれた。すると徐々にチーム内に変化が生まれ、結果的に事業の業績も大きく伸びた。猪尾氏は「降格後の2年間は自分が一番成長した時期」と振り返る。

別の重要な気づきもあった。支援先の中小企業も、仕事の脱属人化という同じ課題を抱えていたのだ。

JOINSのメンバーは全員が副業者だ(白馬でビジネス合宿、2020年11月)

「ほとんどの大企業は、脱属人化、組織化、仕組み化をやっている。だから、もうかるんです。一方で多くの中小企業にはそのノウハウがない。ただ、会議で『仕組み化が大事」と話すだけでなかなか実現できていません。でも、大企業で実際に仕組み化を経験した人が週に数時間でも関わり、口だけではなく実際に現場で手足を動かしてくれれば、全然違ってくるはずだと気づきました」

地方の中小企業と、都会の大手企業で働く人材を、副業・兼業で結びつけるという発想は、そこから生まれた。働く側は活躍の場を広げながら、収入源を増やし、より自由に仕事や人生を楽しめるようになる。中小企業側も仕組み化によって生産性を上げ、収益機会の拡大が図れる。双方にメリットがある仕組みを事業化すれば、ビジネスになると考えた。

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「食いっぱぐれリスク」からの解放