2020/12/14

アジュバントMF59にスクアレンを使っているセキーラスの広報担当ジョアン・クリアリー氏は、ナショナル ジオグラフィックの取材に対し、利用しているスクアレンはワシントン条約の保護対象ではないサメに由来するものだと回答した。ただし、スクアレンのサプライヤーが海洋管理協議会(MSC)の漁業認証規格に従っているかどうかは明らかにしていない。

「シャーク・アリーズ」のブレンドル氏はこう話す。「保護対象の種を使っていないからといって、持続可能とは限りません。法的に保護されている種はごく一部で、別の種を保護対象に加えるには何年も必要です」

ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(協会が支援する研究者)で、米バージニア州を本拠地としてサメの保護にあたっている「ビニース・ザ・ウェーブズ」の主席科学者を務めるオースティン・ギャラガー氏は、アカシュモクザメのような海の最上位捕食者がいなくなれば、環境への影響は甚大だと話す。

「サメは、海の白血球とも言えるような重要な役割を果たしています。弱っていたり、ケガをしていたり、遺伝子を残すのに適さなかったりする生物を食べることで、生態系を安定させます。詩的に言えば、自然選択の執行者なのです」

求められる代替品

ブレンドル氏は、製薬会社にはサメのスクアレンに代わる有効なアジュバントを開発して規制機関に提示する責任があると述べる。米国の製薬会社ノババックスは、COVID-19のワクチン候補の臨床試験に「マトリックスM」という別のアジュバントを使っている。マトリックスMは、チリに多く生息するキラヤという木の皮から作られる。

同社はキラヤに由来するアジュバントは安全だと述べているが、FDAの評価はまだ済んでいない。

「現段階では、規制機関はワクチンに利用できるスクアレンの代替品を認可していません。これには、純度が関係しています」と、セキーラスの広報クリアリー氏は述べる。

しかし、米国のバイオテクノロジー企業アミリスの主席科学者であるクリス・パッドン氏によると、同社の医薬品グレードのスクアレンは、サメに由来するスクアレンと同等、あるいはそれ以上の安全性と純度であるという。米国の非営利組織である米国感染症研究所(IDRI)も同じ認識ということだ。

アミリスは、ブラジル南東部で大規模に栽培しているサトウキビ由来のスクアレンを利用している。理論的には、約10ヘクタールのサトウキビ畑で10億回分のCOVID-19ワクチンに利用できるスクアレンを供給できるそうだ。

パッドン氏によれば、サトウキビは栽培法や収穫法を調整できるため、生息場所や加工場所によっては不純物が混じることもある動物のものよりは品質を維持できるという。さらに、サメを捕まえて肝臓を取り出すより、サトウキビを育てるほうが安価だ。

ビニース・ザ・ウェーブズのギャラガー氏は、パンデミックによってワクチンの開発プロセスや薬の成分に注目が集まっていると言う。「このほかにも、パンデミックで思いがけないことが起きています。世界規模で海からサメが消えつつあるという重要な環境問題にも光が当たるようになっています」

(文 JUSTIN MENEGUZZI、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年11月18日付]

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