2019年6月に政府が閣議決定した「成長戦略実行計画」に、副業・兼業の拡大が「スキルや経験の獲得を通じた、本業へのフィードバックや、人生100年時代の中で将来的に職業上別の選択肢への移行・準備も可能とする」と書かれている通り、「スキルアップや知識獲得のために会社の外で仕事をする」という意味において、複業を「越境学習」の一つだとする解釈もあります。

私も委員として参加していた「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」 の報告書でも、複業は「体験総量」をあげるための重要な学びのアプローチの一つである、とされています。

単なる小遣い稼ぎを目的とした「副業」ではなく、自己成長や価値貢献を目的とした「複業」は個人のビジネス戦闘力(エンプロイアビリティー)を高めてくれます。ですから私は、「副業」ではなく「複業」であることがポイントだと考えています。

「複業」によって「なめらかな転職」が可能になる

私が考える「複業」には、もう1つのメリットがあります。それは、新しい職場をお試しできるようになり、「なめらかな転職」が増えることです。

「“おためし副業”で自分に合う会社を発見、採用のミスマッチをなくす」というサービスがありますが、これに限らず副業や複業は「仕事を通じてその会社の社風やコミュニケーションスタイルなど、外からは見えづらいものが見えるようになる」という側面があります。

複業が可能になれば、新しい職場をお試しする「なめらかな転職」が増える(写真はイメージ=PIXTA)

社員数が少なく社員1人の占めるインパクトが大きいスタートアップなどでは、採用のミスマッチを減らすため、面接での評価が高い人でも必ず1~3カ月程度の複業期間を設け、お互い納得感をもった上で採用・転職を決めるというルールにしているところも少なくありません。

これまでの転職は「清水の舞台から飛び降りる」ような覚悟で現在の職場を辞め、いちかばちかの賭けで新しい職場に入社する、という方法しかありませんでした。そのため、入社してみたら思っていた環境・仕事内容とは違ったというミスマッチが発生し、早期に退職してしまう「後悔する転職」になることも残念ながら起こっていました。

複業でのお試し入社期間を設け、まずは本業80%・複業20%という形で片足(の指先くらい)を突っ込みつつ、「いい感じ」であればもう一方の足も新しい職場に移す。そのような「なめらかな転職」が、今後は可能になるでしょう。

複業によってエンプロイアビリティーを獲得した個人が、自らの意思でポジティブになめらかに流動化してゆく。複業を通じた「なめらかな転職」の増加が、日本型の雇用の流動化の一つの形なのではないでしょうか。

時代の要請もあり、「副業」を認める企業は5割に達しました。今後ますます拡大していくことは間違いありません。ところが「副業」の経験がある人はまだ3割にすぎません。

複業への壁があるとしたら、「学びたくない」「複業なんて面倒なことしたくない」「できることなら楽して今の職場にとどまり続けたい」という、自分自身の現状維持バイアスでしょう。

変わる道を行くか、変わらない道を行くか……どんな道を歩むかはすべて自分次第ということです。

西村創一朗
2011年首都大学東京法学系を卒業後、新卒でリクルートキャリアに入社。法人営業、新規事業企画、採用担当を歴任。本業の傍ら「二兎(にと)を追って二兎を得られる世の中を創る」をビジョンに掲げ、15年にHARESを創業。複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業・政府向けにコンサルティングを行う。
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