新米商戦ひっそりスタート 古米多く6年ぶり値下がり
今年も新米の季節ですね。各産地の新米が昨年より安く販売されています。消費者にはうれしい話ですが、スーパーの売り場はいまひとつ盛り上がりを欠いています。あまり積極的に売られていない印象があります。コメ袋に貼られているシールをみて「新米だ」とわかる程度です。実は今年、多くのスーパーは新米を大きくアピールしていないんです。今年の値下がりにも大きく影響しているのですが、去年のお米の在庫が高水準なためです。
古米の在庫が膨らむ
昨年産まで5年連続で価格が上昇し、消費者のコメ離れが一層進みました。さらに、今年は新型コロナウイルスによる外食需要の減少も加わり、昨年産の古米が余っています。全農が今年10月末時点で抱える昨年産のお米の在庫は前の年と比べて2倍の25万トンとみられています。流通業者の倉庫はパンパンです。一方、今年の全国の作柄は101(平年並み)で、農水省の9月時点の予想では、収穫量は昨年を超えます。北海道や東北など主要産地で豊作傾向にあり、コメ余りが一層意識されそうです。流通や小売りは新米を大きくアピールしてしまうと残っている古米が売れなくなるため、広告を手控えているとみられます。
新米はどのくらい下がっているんでしょうか。主要銘柄の卸間の取引価格、つまり卸同士でコメを融通し合う時の価格は昨年の出回り当初と比べて8~19%下落しました。指標となる新潟産コシヒカリ(産地を特定しない一般品)は現行の流通制度になった2004年以降で最も安くなっています。
銘柄も乱立気味
昨年前の値上がりの反動とコロナによる影響が重なり、特に外食向けなどの業務用米の品種が大きく値下がりしています。さらにここ数年でコメの新銘柄が乱立していることも値下がりの原因となっています。
コメの銘柄は2010年は608銘柄でした。今年は869銘柄とこの10年で250銘柄以上増えています。さらに毎年10銘柄以上なくなっていて入れ替わりも激しくなっています。銘柄は増えていますが、需要は減っている。味も最高クラスの特Aの数が増え、どれもおいしいくなりました。なかなか差別化が難しくなっています。
店頭価格も安くなっています。日経POS情報で10月の店頭価格を調べてみると、秋田産「あきたこまち」は5キロ1827円と4.4%下落、新潟産「こしひかり」は3.3%下がっています。主要銘柄の平均で昨年より6%も下がっているんです。
値下がりしないブランド米
しかし、一方で、値下がりしていない新米もあります。東京・目黒区にある専門店「スズノブ」で話を聞いてきました。西島豊造社長は「スーパーとは扱っているものが違うので下げていない」と話します。値下がりしていない理由は扱っているコメに秘密がありました。スズノブではスーパーで扱わないブランド米を販売しています。「一昔前だと、新潟コシヒカリとか秋田のあきたこまちなどがブランドと言われていたが、そういったおコメは一般になった。ブランド米はさらに栽培・安全性にこだわったとか、その生産者の生産意欲をわかせるためのお米というのがブランドになっている」と解説します。おコメの価格変動は業務用米→一般米→ブランド米の順で影響が出るといいます。現在値段が下がっているのは業務用米と一般米の一部であって、一般米が総崩れするまではブランド米が値崩れすることはないそうです。
西島さんは銘柄の乱立について「これから残るおコメがどのくらいあるのかというと、逆に減っていくのではないかと思う。特に今回のコロナのせいで力のない品種ブランドというのは消えてしまうだろう」と心配しています。
値段の方程式はこうなります。6年ぶりに値下がりしたのは業務米と一部の一般米、逆に値上がりしたのが消費者に支持されたブランド米。日本人一人あたりのコメの消費量は年々減っており、現在は54キログラム。昭和30年代後半のピーク時に比べると半分以下です。需要が減るなか、銘柄同士の生存競争も厳しくなるのが予想されています。
(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。