――今回の投票結果は。

「MJと同時に多数決による投票も実施しましたが、両方式ともに1位は伊藤公一朗著『データ分析の力』、2位は山口慎太郎著『「家族の幸せ」の経済学』でした。3位はMJでは、大竹文雄著『行動経済学の使い方』で、多数決では瀧澤弘和著『現代経済学』と結果が分かれました」

――経済理論を応用するときに注意すべき点はありますか。

「学者はしばしば現実と理論モデルの世界を混同します。現実が理論モデルの世界に当てはまるのなら、うまくいく場合が多いのですが、そうでない場合もあります。例えば、オークション理論では落札した人が購入するのが当たり前の設定になっていますが、現実には落札したのにお金を払わない人がいます。そんな事態はオークション理論の教科書や論文にはどこにも書いてありません。入札者に条件をつけて絞るといった対応が必要になります。実際にビジネスに携わる人と、きちんとコミュニケーションをとって、使える理論と使えない理論を選別していく作業がとても大切です」

――日本ではメカニズムデザインはさらに広がるのでしょうか。

「オークション理論とマッチング理論ではかなり状況が異なります。マッチング理論が適用されるのは、臓器移植、医者と病院の組み合わせなど社会的に難しい問題が多いため、活用事例はそれほど増えないでしょう。一方、オークションは金銭の世界、あっさりした市場経済の話であり、売り上げや利益にプラスになればよいと考えるなら、利用すればよいのです。ブロックチェーンの世界も、発行コインの売買などでオークション理論を応用しやすい分野の一つです」

――学者のビジネスへの関与に対して、学界内には慎重にすべきだとの声もあります。

「自分が向き合っている相手にどれだけ価値をもたらしているのか、と考える学者は少ないと思います。学者のキャリアパスの中では、そういうマインドが育ちにくいため、ビジネスの世界に足を踏み入れるのに慎重な人が多いのです。しかし、制度設計の問題でも、理論だけでは世の中は変わりません。実際に使っている例を見ると、人は行動を変えます。理論を応用した成功例を増やすことが大切なのです。私はこれからも草の根運動を続けるつもりです」

(編集委員 前田裕之)

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