
金星の大気中からホスフィン(リン化水素)を検出したというニュースが2020年9月に発表され、未知の微生物によって生成されたものではないかとの臆測が飛び交った。しかし、続けて行われた3件の研究では、ホスフィンの証拠は見つからなかった。
そのうちの1つの研究グループは、アーカイブされているほかの望遠鏡の観測データを精査したものの、金星の雲にホスフィンの兆候はなかったとしている。論文は10月27日付で学術誌「Astronomy & Astrophysics」に発表された。
ほかの2つのグループは、ホスフィンを発見した研究チームのオリジナルデータを再検証したが、やはりホスフィンの証拠は見つけられなかった。その1報も近々「Astronomy & Astrophysics」に発表される予定だ。
とはいえ、元の研究グループは、ほかの科学者たちが自分たちの研究を精査したことを、当然と受け止めている。
「科学とはそういうものです。もしこのデータが肉眼で見て確認できるようなものであれば、ホスフィンはもうとっくに発見されていたことでしょう」。ホスフィンを検出したという論文の著者の1人である、米マサチューセッツ工科大学地球大気および惑星科学学部の特別研究員、クララ・ソウサ・シルバ氏はそう述べている。
驚きの発見
発端となった論文は、9月14日付で学術誌「Nature Astronomy」に発表されたもので、金星を取り巻くぶ厚い硫黄の雲のなかにホスフィンが存在し、その濃度は地球の大気中の1000倍以上という内容だった。
研究チームは、電波を観測する2つの望遠鏡を活用してホスフィンを特定した。まずは17年、英カーディフ大学のジェーン・グリーブス氏らが、ハワイのマウナケア山頂にあるジェームズ・クラーク・マクスウェル電波望遠鏡を使って、ホスフィンらしき物質を検出した。そして19年、研究チームはより精度の高いチリの高地にあるアルマ望遠鏡で、ハワイの観測結果を検証した。