日経ナショナル ジオグラフィック社

今回の足跡化石は、ホワイトサンズ国立公園で進行中の足跡発見プロジェクトの一環で発見された。公園の資源プログラム・マネジャー、デイビッド・ブストス氏の観察眼がプロジェクトの原動力だ。足跡は浅く、湿度のわずかな違いによって色がかすかに変化するだけだ。発見するのは簡単ではない。

「そんな幽霊の足跡のような化石に、彼は次々と気付いていったんです」。ブストス氏の観察眼について、レイノルズ氏はそう語る。

16年、ブストス氏はその足跡について様々な専門家に相談した。その中に、今回の論文の筆頭著者であるボーンマス大学の地質学者マシュー・ベネット氏がいた。以来、ベネット氏らの調査チームは何度もホワイトサンズに足を運び、人間と動物の足跡を公園内の各区域で記録していった。

レイノルズ氏によれば、地質的に厳密に言うと足跡はとても細かい砂の上に残されており、薄い塩の層によってその形が保たれているのみだという。チームは140個の足跡を注意深く掘り起こし、ブラシを用いてその繊細な構造をあらわにしていった。

しかし、足跡はいったん露出すると早々に崩れ始めてしまう。そこでチームは、写真を複数枚撮って立体的なモデルを作成する3次元(3D)フォトグラメトリー(写真測量法)と呼ばれる技術を使い、足跡を記録した。

「足跡を発掘したら、すぐに時間との闘いが始まります。すっかり消え去ってしまう前に記録しなければなりません」。レイノルズ氏はそう説明する。

砂の中の足跡化石を丁寧に浮かび上がらせる科学者たち。足跡はこの後、3次元的に記録される。足跡は非常にもろく、掘り起こされるとたちまち崩れ去ってしまう(COURTESY OF NPS AND BOURNEMOUTH UNIVERSITY)

小さな子どもの足跡

足跡の形状、大きさ、配置などから、この泥の上の旅路がどのようなものだったのかが推定された。現代人の足の長さとの比較に基づけば、主に足跡を残したのはおそらく12歳以上の女性か若い男性だ。途中、少なくとも3カ所で小さな足跡が現れる。3歳未満の子どもの足跡だ。

足跡の間隔からは、この旅人が時速6キロ前後で歩いていたと示唆される。小走りというほどではないが、泥で足元が悪かったことや、子どもを抱えていたことを考えれば、速いペースだと言えるとハタラ氏は話す。

ところどころ、歩幅が異様に大きい箇所があった。障害物をまたいだか飛び越えたようだ。「水たまりがあったのかもしれません」とレイノルズ氏は言う。「あるいは、ぬれたマンモスの糞(ふん)だったかも」

ただ、子どもが運ばれたのは、片道だけだった。北へ向かう旅路では、左の足跡が右の足跡よりもわずかに大きい。これは、片側の腰に子どもを抱えていたからかもしれない。また、足を滑らせたせいで、バナナ形に長く伸びた足跡もあった。ところが南へ戻る際には、両足の跡の大きさに違いが見られず、足を滑らせた回数も少ない。重荷がなかったことが示唆される。

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