筋肉は全身の健康を担保する「保険」になる

前出の2週間の運動不足実験では、脚の筋肉量だけでなく、糖尿病に関わるインスリンにも悪影響が起こっていたことにも注目したい。

実は、筋肉の減少は、全身の健康に悪影響をもたらすことが近年、続々とわかってきているのだ。

韓国で、筋肉量と2型糖尿病の発症の関連を調べた前向きコホート研究がある。この研究では、筋肉量が少ない人は2型糖尿病リスクが高くなった。BMIで分けたところ、非肥満の人で11.9%、肥満で19.7%、リスクが増加した(下グラフ)。

糖尿病とは、血糖値の上昇を抑えるインスリンというホルモンの不足や働きの低下によって、血糖値が高い状態が続く病気のこと。アジア人は、他の人種に比べて、肥満度が低い状態でも糖尿病になりやすいことが知られている。

その原因と考えられているのが、内臓脂肪と筋肉量の低さだ。

「すい臓からインスリンが分泌されて血糖値が低下する際に、大部分のブドウ糖は筋肉に取り込まれます。しかし、筋肉量が少ないということは、糖の貯蔵庫が小さいということを意味します。すると、血中のブドウ糖が減りにくくなり、高血糖の状態が続くのです」(藤田教授)。

筋肉量が少ないと、糖の貯蔵庫もミニサイズになってしまう。貯蔵庫に取り込まれずだぶついたブドウ糖は、肝臓で脂肪に変換され、中性脂肪値が高くなる。血液中の中性脂肪値が高い状態は動脈硬化のリスクを高め、心筋梗塞などの心血管疾患を起こしやすい状態になる。つまり、筋肉量をしっかり維持しておかないと、体内で老化の進行スピードを速めてしまうのだ。

筋肉量が少ないと糖尿病リスクが高くなる

6895人の糖尿病を発症していない男女(平均年齢52.1歳)を、平均筋肉量指標(MMI)の低値、中値、高値の3分位に分けた。追跡期間中に19.4%の人が2型糖尿病を発症。肥満がなく筋肉量が高値である人を1とした場合の2型糖尿病リスクを見たところ、肥満している、いない、いずれの場合も、筋肉量が低いほど2型糖尿病発症リスクが高くなった。(データ:Diabetologia. 2017 May;60(5):865-872.)

さらに、筋肉を作る材料として忘れてはならないのが、タンパク質だ。

71万5128人の男女を対象に、タンパク質摂取量と死因との関連を調査した研究を解析した結果、動物性タンパク質、植物性タンパク質を合わせた総タンパク質摂取量が多いと全死亡リスクが低く、植物性タンパク質の摂取は心血管疾患による死亡リスクの低下とも関連していたという[注1]

「筋肉の維持のために欠かせない要素が、筋肉を作る材料となるタンパク質を食事でとること。タンパク質の摂取は、筋肉のみならず、ホルモンや細胞、血液、酵素など、全身の組織すべての維持に関わります。筋肉量と腹部手術の術後について8つの研究を検討したところ、筋肉量が少ないと合併症リスクが大幅に増加し、予後も不良となることが報告されました[注2]。筋肉量は、全身の組織が健康であることを証明する指標になる。つまり、筋肉を蓄えておくと、万が一の備えになる。生きていく上で蓄えておきたい、保険のようなものといえます」(藤田教授)。

アンチエイジング実現には、筋肉を維持すること、そのためにタンパク質をとることが必須条件というわけだ。

次回は、筋肉量を増やすカギとなる、タンパク質の賢い摂取法について聞く。

[注1]BMJ 2020;370:m2412

[注2]Langenbecks Arch Surg. 2014 Mar;399(3):287-95.

(ライター 柳本操、図版 増田真一)

藤田聡さん
立命館大学スポーツ健康科学部教授。1970年生まれ。1993年、ノースカロライナ州ファイファー大学スポーツ医学・マネジメント学部卒業。1996年、フロリダ州立大学大学院運動科学部運動生理学専攻修士課程修了。2002年、南カリフォルニア大学大学院キネシオロジー学部運動生理学専攻博士課程修了。2011年より現職。運動生理学を専門とし、老化とともに起こる筋肉量と筋機能の低下に焦点を当てた骨格筋タンパク質代謝について研究する。

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