「好き」だから強い

世の中には、ゼロからイチを生み出す仕事も、イチを100へと広げていく仕事もある。「達成力」と「誠実さ」は、共通して必要とされる基礎スキルだろう。ただ、いざ実践するとなると難しい。伊豫氏はリクルートでキャリアを積む中で、これらを自分のものとしていった。

複数の新規事業開発にも携わり、常に挑戦的なプロジェクトへ取り組める職場だった。その環境を飛び出そうと決めたのは、「自分でなければ解決できない」と思える社会課題を見つけたからだ。その課題とは、伊豫氏自身が「様」と敬称を付けるほど愛してやまない、「猫」にまつわるものだった。

「3匹の猫様を実家で飼っていたのですが、結婚した後、夫婦で住む家で猫様を飼い始めたのは2016年。共働きだったので、留守中の様子が全く確認できず、本当に心配でした。そんなときふと、大学院で学んだバイオロギングを転用すれば、『見えないところにいる動物』の行動もとらえられるはずだと思いつきました。しかも私には、事業を起こしたり、広げていったりするノウハウもある。アイデア段階で他の飼い主にインタビューをしたり、数百人規模でアンケートを実施したり。すると、多くの飼い主たちが、同じ悩みを持っていることが分かりました。起業に値する社会課題が存在すると確信したんです」

持ち前の要領のよさも奏功し、事業を軌道に乗せていく過程で「大変だとか、つらいとか思い悩んだ局面はあまりない」と語る。「すべては大好きな猫様のためにやっているので、楽しいという以外、何もないですよ」

伊豫氏は猫の行動データを生かした新事業も思い描いている

キャトログという商品の細部にまで、その愛情は宿っている。首輪型端末は、神経質な猫がストレスを感じにくいよう、軽量化と薄型化を徹底。運動中に引っかかってもすぐに外れる安全な留め具を採用したり、センサー部分の部品にはすべて静音検査を実施したりと、猫にとっての安全性や快適さにこだわり抜いている。

さらに20年10月には、普段使用している猫用トイレの下に敷くだけで体重や尿量・トイレ回数を自動記録できる「Catlog Board(キャトログ ボード)」も発表。首輪とボード、2つの端末を組み合わせれば、飼い主は愛猫の行動や健康に関する情報を、総合的に把握できるようになる。クラウドファンディングサイトで予約販売を始め、すでに目標の金額を集めている(10月29日現在)。

好きだからこそ、尊重する。調べ抜く。「キャトログ」の強みは、伊豫氏のそんな思想が製品の隅々まで貫かれている点だ。今後は、すでに3億件を超えるほど集まっているという猫の行動データを活用した新しい事業展開も検討している。研究現場で育んだノウハウと、リクルートで見付けた「勝ち方」は、新事業でも「猫様」と飼い主を喜ばせるサービスにつながりそうだ。

(ライター 加藤藍子)

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