「叱れない上司」とゾンビを対比

ブックファースト新宿店で開いている「普遍×変化の兆し―セレンディピティを起こす150冊」フェア

リアル店舗で本を手に取りながら、偶然の出合い出合いで気づきを得てもらうためには、演出が必要だ。どの本を選ぶかとともに、どう並べるかが腕の見せ所となる。丸善丸の内本店では「2冊グループ」や「3冊グループ」「4冊グループ」というくくり方を試みている。

ビジネス・経営のセクションでは『他者と働く』(宇田川元一著)と『大学で学ぶゾンビ学』(岡本健著)の2冊を対比した。「お題」はコミュニケーション。「繊細すぎる部下」「叱れない上司」などオフィスの人間関係に戸惑う人は多い。『他者と働く』は、職場で「わかり合えない」ということを、障害だとは見なさない視点から考え始める。忖度(そんたく)したり対立したりするのではなく、対話を通じて新しい関係性を築く試みだ。一方、ホラーで人気コンテンツとなっているゾンビを題材にした『大学で学ぶゾンビ学』が扱うのは、コミュニケーション不全の「他者化」状態としてのゾンビ。どちらも刺激的だが、併読することでインスピレーションが生まれそうだ。

イノベーションがテーマの棚では、『バグトリデザイン』(村田智明著)と『不便益』(川上浩司著)を横に並べた。「バグ」とはプログラミングのキズで、不便を引き起こす。『バグトリデザイン』は、不便を取り除いて革新を起こす思考法がテーマだ。一方、後者の本は不便を生かして革新を起こす研究を取り上げた。2冊は、真逆のアプローチを採用している。

環境・サステナビリティのセクションでは、3冊を過去形、現在進行形、未来志向の時間軸で並べてみた。『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』(ジェイムス・スーズマン著、佐々木知子訳)は原始時代そのままの狩猟採集生活を通して、豊かさを考えた。『ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる』(山崎満広著)はサステナブルな環境都市の今を紹介している。そして『ほどよい量をつくる』(甲斐かおり、インプレス)は、大量消費への疑問を通してより豊かな未来の暮らしを考える一冊だ。

イノベーションの棚には「組み合わせの妙」から気づきを演出する4冊グループもある。『戦争と農業』(藤原辰史著)、『夢の正体』(アリス・ロブ著、川添節子訳)、『天才の閃きを科学的に起こす 超、思考法』(ウィリアム・ダガン著、児島修訳)、『QRコードの奇跡』(小川進著)だ。「戦争と農業」という一見、無関係なもの同士が、「夢の中」では組み合わさる。その「閃(ひらめ)き」を科学的に研究した人物がいる。実は「QRコード」は意外な景色が技術と組み合わせが生んだ閃きでできあがった……。こんな具合に「こじつけ気味」でストーリーにまとめ上げた。

リアル書店の新しい価値

リアル書店とのコラボレーションで、顧客に新しい価値を提供しようとするネット書籍紹介サービスはほかにもある。ビジネス書の要約をアプリで配信しているフライヤー(東京・千代田)は、10月から本に触らずに立ち読みができる「非接触型の立ち読みコーナー」を全国約300の書店に順次開設している。

フェアの期間は2021年3月31日までで、出版取り次ぎ最大手の日本出版販売(日販)と提携した。POPのQRコードを手持ちのスマホで読み取れば、要約文の「立ち読み」ができる。感染リスクを減らしながら書籍の大筋を把握できる、ウイズコロナ時代のサービスをうたっている。各書店に並べるのは30冊。フライヤーが要約アプリ・サイトに掲載している約2200冊のアクセスランキングや、日販の書店の売り上げ動向データなどを分析して選んだ。テーマは「絶対読んでおきたい名著!」。『学びを結果に変えるアウトプット大全』(樺沢紫苑著)、『超一流の雑談力』(安田正著)、『Think clearly』(ロルフ・ドベリ著、安原実津訳)などが店頭にそろえてある。

(若杉敏也)

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