
「これまでもそうですが、アルバムに入れる曲は直感でいいなと思ったものを選ぶんです。ほぼ2、3年前に作詞作曲したものなので、振り返るところから制作を始めます。ただ、他のアーティストさんのインタビューとかを読むと、アルバムに向けて新たに曲を作る人も多いですよね。でも、私はそういう作り方ではない。数年前に考えたことは今の自分に書けないし、新鮮です。『なんでこんな曲書けたんやろう?』って思うから、ありがたい存在なんですよ。
とはいえ、昔書いた曲でも、今の自分にしっくりくるから選ぶし、今の自分が本当にそう思っているから出せる。『裸の心』は3年前の曲ですが、今の自分のほうがぴったりくる。『黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を』もそうです。
不思議だなと思うけど、書くときは大げさに書いたり、強がっていたりするので大人ぶっている。10代で書いた恋愛のほうが今の自分っぽいとか、刺さることがあるんです。歌詞に年齢がやっと追いついたみたいな。そりゃあ10代の頃の恋愛の歌は自分でも恥ずかしいし、ずっと世に出ていかないままだろうなと思うことも多いけど、こうしてひょこっと芽を出すこともある。それが、曲を作り続けようと思える理由です」
この時代、聴く人の力のほうがすごい
爽やかな風を感じるようなサウンドと、主人公の喪失感が色濃く表れた歌詞の対比が鮮やかな『空の青さを知る人よ』は、同名映画の主題歌として19年10月にリリース済み。しかし、詞中に、「悪魔の顔した奴らが/会いたい人に会えない/そんな悪夢を」とある。奇しくも、コロナ禍で孤独を深めて悩む人たちの姿と重なり、肌が粟立った。曲には世に出るタイミングがある、という彼女の言葉は、こうした不思議な時代とのシンクロニシティをも指しているのかもしれない。
「なんというか、すごい、こういうタイミングで出すと、別の聴かれ方をするのかなと。私は恋愛の曲として書いたけど、1人ぼっちで寂しい人が別の聴き方を……、この状況ではもしかしたら、寂しい人に響くような楽曲になるのかなと。私にとっても、コロナは憎い状況ではあるので。
この時勢ゆえに、『音楽の力とは?』とインタビューなどでよく聞かれます。でも、それは聴く人の力がすごいんだと思う。この曲にしても、さっき言ったように私は恋愛として書いても、それを聴く人が解釈を広めて受け止めてくれたりする。この時代、私たちアーティストの力よりも、聴く人の力のほうがすごいのだなとつくづく思いますし、この世の中に出たときに、どう広がっていくのか、すごく楽しみではありますね」

(ライター 橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2020年10月号の記事を再構成]