試される科学 新型コロナ克服で期待と疑念が交錯も

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

英ロンドンのジュビリー・ガーデンで、距離を取りながらくつろぐ人々。感染確認のために体温が測定されるようになった社会状況を反映し、物体の熱を捉えるカメラを用いて撮影している(PHOTOGRAPH BY GILES PRICE)

世界の姿を変えてしまった新型コロナウイルス。ウイルスの拡散やワクチン開発に決め手がない中で、科学への信頼に不安を抱く人々もいる。新型コロナウイルスを大特集したナショナル ジオグラフィック11月号の中から、試行錯誤しながら疫病を克服しようと前進する科学者、そして科学の意義を考えてみよう。今こそ、科学の力が試されている。

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科学者たちが先を争って未知のコロナウイルスの解明に乗り出したとき、感染防止のための専門家のアドバイスには進んで従おうと思った。当初は主にせきやくしゃみによる飛沫がさまざまな物の表面に付着し、そこから感染が広がると考えられていたため、私(サイエンスライターでもある、筆者のロビン・マランツ・ヘニグ氏)は台所の調理台をきちんと拭き、手で顔に触らないように気をつけ、丁寧に手を洗うように努めた。

その後、私の住む米ニューヨーク市で都市封鎖が実施されてから2週間半ほどたった頃、専門家のアドバイスががらっと変わった。マスクをしなさい、というのである。当初は、最前線の医療従事者を除いて、一般の人はマスクを着けないようにと言われていた。方針転換はおおむね新しい仮説に基づくものだった。新型コロナウイルスは主としてエアロゾル、つまり空気中に漂う微小な粒子を介して感染する、という仮説だ。

どちらが本当なのか。接触感染かエアロゾル感染か。エレベーターのボタンに触ることより、そばにいる人の吐く息を警戒すべきなのか。科学者は本当にわかっているのだろうか。

マスクについてのアドバイスが変わったことで、私は不安になった。問題は新しい方針そのものではない。専門家が推奨するなら私は喜んでマスクをする。気になるのは科学者たちが場当たり的に対応しているのではないか、ということだ。世界で最も優秀な専門家が最も真剣に発信するメッセージがにわかに色あせ、せいぜい経験知に基づく「善意の推測」にすぎないように思えてきた。

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