○○ちゃんと呼ばれたい
脚本家、中園ミホさん
職場で名字に「ちゃん」をつけて呼ばれる人をうらやましく思います。私はいつも「○○さん」と呼ばれて、周囲から距離を置かれているなと感じます。プロジェクトなどでは年齢に関係なくリーダー的な立場になることが多いので、怖がられないように笑顔で声がけするようにしています。(東京都・30代・女性)
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「ちゃん」と呼ばれる人として、真っ先に思い浮かんだのが笑福亭鶴瓶さんです。すごい才能をお持ちで大変なキャリアのある師匠ですが、みな、親しみを込めて「鶴瓶ちゃん」と呼んでいます。
それがなぜなのか考えてみたら、あの方はご自身の失敗や弱点を笑いにできるんです。それは一つの才能ですし、どんなにえらくなってもそれができる。一方で番組でも芸能界でも、ちゃんとリーダー的な役割をなさっている。
このあいだも、ラジオを聞いていて思わず笑っちゃいました。映画の俳優として賞をおとりになったのですが、たまたま別の大きなニュースがあって、受賞の記事がキャラメルみたいに小さかった。それを何度も繰り返して「小さなことにこだわる、せこい自分」をあえて見せる。チャーミングだなあと思いました。
相談者さんは仕事ができるし、人への気遣いもできる。なおかつ「ちゃん」と呼ばれたければ、自分の失敗を笑って話すことです。後輩を教育するときも「私、こんな失敗したのよ」って。一点の曇りもありません、ミスも犯しませんという印象だと、だれも「ちゃん」とは呼びません。
目指すは鶴瓶ちゃんですが、相当ハードルが高いので、手っ取り早く一度だけやってみてほしいことがあります。
「実は私、○○ちゃんと呼ばれたいんです」と仕事仲間の前で言う。朝礼でも、飲み会でもいい。できるだけの笑顔で、「お願いですから、ちゃんと呼んでいただけませんか」って。
そのときみんながどんな反応をするか。ドン引きされて、不気味がられるかもしれない。そうしたら「すみません。とんでもないこと言っちゃって……」とおちゃめに謝ればいいんです。しつこく言うとパワハラになる恐れがあります。「えっ、あの人のこと○○ちゃんと呼ばなきゃいけないの?」と、よけいな気を遣わせては逆効果です。
一方で、本当に○○ちゃんと呼んでくれるようになるかもしれません。あんなに仕事が完璧にできてリーダーまで務める人なのに、かわいいな、すてきだなと思う人がいるかもしれない。そうして隙(すき)を見せれば、みんなとの距離が一気に縮まるはずです。ぜひ、試してみてください。
[NIKKEIプラス1 2020年10月24日付]
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