移り変わる題材 映画は世につれ

今回は2008年のリーマン・ショックに着想を得た映画が2本入った。リーマン関連ではほかにも「マネー・ショート」(15年)、「キャピタリズム」(09年)などの秀作もあり、映画製作者に強烈な印象を与えた経済危機だったようだ。対照的に1990年代は経済映画が振るわない。この時期、経済にフォーカスして成功した映画は少ない。

この理由として帝京大学の宿輪純一教授は政治と経済の2つの要因を挙げる。政治的理由とは東西冷戦の終結の影響だ。80年代後半から「ベルリンの壁」崩壊、湾岸戦争、ソ連崩壊など、現実世界で歴史的な出来事が相次ぎ「映画も経済から目が離れてしまった」(宿輪さん)。この影響で90年代は「ミッション:インポッシブル」(96年)など、経済ではなく国際政治を取り扱う映画が増えたという。

80年代は株価が世界的に上昇し、映画でも「ウォール街」(87年)など証券系の映画が話題をさらった。ところが87年のブラックマンデーを境に株価が世界的に低迷。90年代は後半のアジア通貨危機などを除くとドラマチックな経済事象が少なく、映画人の製作欲を刺激するような題材に乏しかったのだという。「歌は世につれ世は歌につれ」というが、映画も時代とともに移り変わる。

■ランキングの見方 数字は10人の専門家の評価を点数化。(1)監督(2)製作年(3)発売・販売元(4)DVD価格。写真は発売・販売元提供。

■調査の方法 専門家への取材を基に、2000年以降に公開された、経済や金融をテーマとした国内外の主要な映画25作品を選定。「経済・金融の仕組みがわかる」「作品の完成度」「時代性」の3つの観点から、映画に詳しいエコノミストが1位から10位までを順位付けし、編集部で集計した。

■今週の専門家 ▽石川智久(日本総合研究所・マクロ経済研究センター所長)▽今井澂(経済評論家)▽加藤出(東短リサーチ社長)▽川崎龍一(三菱UFJ信託銀行シニア・ポートフォリオマネージャー)▽久保和貴(岡三証券グループ・シニアエコノミスト)▽小池理人(第一生命経済研究所・副主任エコノミスト)▽重見吉徳(フィデリティ投信・マクロストラテジスト)▽宿輪純一(帝京大学経済学部教授)▽末沢豪謙(SMBC日興証券・金融財政アナリスト)▽吉本元(野村証券・シニアエコノミスト)=敬称略、五十音順

(生活情報部 木ノ内敏久)

[NIKKEIプラス1 2020年10月24日付]