複雑性に耐えられるか

著者は現代社会を特徴付けるキーワードとして、「相互依存」「スピード」「複雑性」の3つを挙げます。

相互依存関係にある世界とは、 社会システムが深いところまでつながっている世界です。「そこでは、複雑な相互作用の網を通してあらゆるリスクも互いに影響し合う」と本書は指摘します。例えば経済リスクが顕在化したとき、思わぬ形で政治リスクを誘発します。また、それが環境破壊や教育のゆがみにつながる可能性が出てくきます。そして「リスクは互いに増幅し合って雪だるま式に大きくなる」のです。

この相互依存を促進してきた「主犯格」であると著者が指摘するのは、テクノロジーの進歩とグローバリゼーションです。この流れは、同時に「スピード至上主義」も生みました。典型的なのがスマートフォンでつながるネットワーク。感染症を巡る情報は、内容を吟味されないものも含めて想像を超えるスピードで拡散していきます。それが医療崩壊や破壊的混乱を増幅しました。

「複雑性」は「VUCA(ブーカ=不安定さ、不確実さ、複雑さ、曖昧さ)」と表裏一体の関係です。「複雑な社会は多くの場合、構成要素の間に目に見える因果関係がないため、予測することがほとんど不可能だ」と本書は説明しています。「複雑性」によって抜本的なリセットを余儀なくされる分野の一つが、政治です。国や集団の意思決定を行うメカニズムが、機能不全を起こしました。民主主義であれ、自由主義であれ、全体主義であれ「複雑性に圧倒されて、物事が決められない」事態に陥っているのです。

この場合、本質的な問題はこれだ。複雑性は人々の知識や、物事の理解を超えたことを引き起こす。つまり、今まさに複雑性が増しているということは、とくに政治家、もっと広く言えば政策決定者にとって、広い情報を踏まえて何かを決めようにも複雑性に圧倒されてしまうかもしれないのである。理論物理学者だった国家元首(アルメニアの大統領、アルメン・サルキシャン)は「量子政治」という造語でそれを明らかにした。ポストニュートン力学の古典的な(線形で予測可能であり、 ある程度決定論的ですらある)世界は、 量子力学的な世界に取って代わられたというのである。その世界は網の目のように互いにつながっており、不確実で気が遠くなるほど複雑であり、かつ観察者の立ち位置によって姿を刻々と変える。この表現は量子力学を思わせる。量子力学とはそもそも、万物のふるまいを説明し、同時に「物質およびそれらが相互に作用する力を構成する粒子の性質を最もうまく説明する理論」である。
(1.マクロリセット 35ページ)

命か経済かの選択

次いで「経済」のリセットを取り上げた部分を引用しましょう。「経済か、命か」の命題です。この2者択一の発想を転換する英知が問われているのです。

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