火星の南極地下に毒性の湖 幅20キロ、周囲に池も?

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

米航空宇宙局(NASA)のマーズ・グローバル・サーベイヤーが2005年4月に撮影した火星(複数画像を合成)。南極にある氷冠が写し出されている。その地下1.6キロの深さに、液体の水をたたえた湖があると考えられている(NASA/JPL/MALIN SPACE SCIENCE SYSTEMS)

地球外で生命を探す科学者たちの合言葉は「水を追え」だ。このほど火星の南極に、そのターゲットにふさわしい場所が見つかった。厚い氷の下に大きな湖があり、それをいくつもの小さな池が取り囲んでいるとする最新の研究成果が発表されたのだ。

「湖が一つだけポツンとあるのではなく、水系が存在すると思われます」と、イタリア、ローマ第三大学のエレナ・ペティネッリ氏は語る。氏が共著者として名を連ねるこの論文は、2020年9月28日付で学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

18年、ペティネッリ氏の研究チームは、火星の南極の地下に幅約20キロの湖が存在すると発表した。その後も観測を続けた結果、新たにその周囲に少なくとも3つの小さな池を発見した。これらはすべて古代の海の名残であるとされ、生命がここにオアシスを見いだし、今もすみついている可能性がある。

もちろん火星研究者の間には、この「液体の水」説に異論もある。別の探査機による観測結果と一致しないという指摘、水があったとしてもスイミングプールのような液体ではなく、泥のような状態ではとも言われている。また、気温が摂氏マイナス100度より高くなることがめったにない環境で、果たして水が液体のまま存在できるのかという疑問もある。

隠れた湖を探して

ペティネッリ氏とその研究チームは、10年以上前に、火星の南極にある層状堆積物に注目した。レーダー観測で、凍った氷河の下に明るく反射している部分があることが示されたのだ。

「水を探していたのではありません。明るく光るものがあったので、それが何なのかを解明しようとしていたのです」と、ペティネッリ氏は言う。

氷の下を観測するために使われたのは、欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズエクスプレス」に搭載されたレーダー装置マーシス(MARSIS)。マーシスが火星の氷床に向けて電波を送ると、氷床の密度や組成が変化する場所で跳ね返って探査機へ戻ってくる。その電波のパターンを解読して、地下に何があるのか、それは液体か、岩石か、または泥なのかを判断する。

12年~15年に集められたデータを解析したところ、南極のウルティミ・スコプリと呼ばれる領域の地下に巨大な「塩」水の湖があることが示唆された。ここでいう塩分は、おなじみの塩化ナトリウムではなく、火星の大地に由来する有毒な過塩素酸塩だ。29回の観測結果から、湖の幅はおよそ20キロと判断された。ただこの時は、探査チームの科学者も、この湖が泥状ではなく液体の水で満たされているとまでは断言できなかった。

当時、ペティネッリ氏も「どちらとも言えません。情報が足りなさすぎます」と話していた。

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