2020/10/19

西シベリアには天然ガスが豊富に存在し、その一部は地中の亀裂や多孔質層に沿って浸透し、タリクの中に入り込んでいる。ガスの発生源はほかにもある。微生物が有機物を食べてメタンや二酸化炭素を排出するのだ。また、メタンハイドレートと呼ばれる結晶が解けて発生するガスもある。

「ガスは1種類ではないかもしれません」とナタリ氏は言う。ガスの発生源はピンゴごとにわずかに違っているのかもしれない。しかし、圧力を上昇させる点ではどれも同じだ。最終的には、ガスの圧力が高まるか、表面の氷が不安定化して爆発し、表面に泥が飛び散り、側面が切り立ったクレーターが残る。

「シャンパンのようなものです」とビシュコフ氏は言う。

チェダーチーズがスイスチーズに?

シベリアの爆発を研究することで、太陽系のほかの天体の氷の爆発現象を理解できるかもしれない。米航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙飛行センターの惑星地球物理学者で氷火山の専門家であるリニー・クイック氏は、シベリアのクレーターは、準惑星ケレスの氷火山とよく似ている可能性があると言う。

「氷でできた衛星とは違い、ケレスには岩石質の土壌成分があるので非常に興味深いのです」とクイック氏は説明する。「私たちはケレスで何が起きているのか明らかにしようとしています」

シベリアのクレーターについてもまだわからない点がある。1つは気候変動との関係だ。北極圏ではここ数年、異常な高温が記録されている。今年(2020年)の6月20日には、ロシアのベルホヤンスク市で、1885年の観測開始以来の最高気温となる38℃を記録した。

14年の発見以来、シベリアのクレーターは増えているように見えるが、「この現象は何千年も前から起きていて、私たちはつい最近になって気づいたのかもしれません」とウォルター・アンソニー氏は言う。この地域の上空を通る飛行機は増えていて、ヤマルの人口は大きく増加している。「鉄道が開通し、巨大な町もできました」とビシュコフ氏は言う。

けれどもやはり、地球温暖化によって爆発の回数が増える可能性はある。気温の上昇により永久凍土が解け、ガスがたまったポケットに蓋をしている氷が不安定化し、爆発するのだ。ウォルター・アンソニー氏は、永久凍土の融解により地中から地表につながる穴が増え、地中のガスがタリクの中を上がってくる「煙突」ができる可能性もあると指摘する。

地球全体の温室効果ガスの排出量を考えれば、1回の爆発で放出されるメタンや二酸化炭素の量は取るに足らないものだろう。しかし、この爆発は「長期的な現象を短期間で見せてくれます」とウォルター・アンソニー氏は言う。

気候変動の影響は北極圏にも及んでいて、北極圏はほかの地域の2倍以上のペースで温暖化している。融解する永久凍土は年々増加していて、場所によっては冬になっても再凍結しない。

永久凍土が融解すると、氷結から解き放たれた有機物を微生物が食べて二酸化炭素やメタンを排出するが、問題はそれだけではない。地質学的プロセスによって排出されるメタンガスもある。永久凍土は地中深くに蓄えられたメタンガスの蓋となり、大気中に出ていくのを遅らせている。永久凍土が融解すると、この蓋が穴だらけになり、メタンがどんどん大気中に漏れ出してしまうのだ。

北極圏の湖でこの現象を調べているウォルター・アンソニー氏は、クレーターの形成に関する最近の研究成果は、深部のガスがすでに地表に噴出している証拠かもしれないと指摘する。「チェダーチーズの塊のようだった永久凍土が、穴のできやすいスイスチーズに変化すれば、爆発はもっと増えるでしょう」と彼女は言う。

「気候変動の物語の中で、これがどのようなふるまいをするのか、予測は困難です」

(文 MAYA WEI-HAAS、図 DIANA MARQUES、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年9月25日付]

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