劇団ひとり 好きな芸人3位「不祥事がないからかな」
好きな芸人 嫌いな芸人 2020
日経エンタテインメント!によるお笑い芸人人気調査の「好きな芸人」で、2019年の20位圏外から20年は3位に急浮上し、タモリと並んだ劇団ひとり。25~34歳女性のカテゴリーではサンドウィッチマンと同率1位に。この1年に一体何が起きた? 結果を本人にぶつけてみた。
「いや~、この1年を振り返って、目立つような活躍をした実感がひとかけらもないのでびっくりしてます。ロト6くらいの確率で、うまい具合に『ゴッドタン』のファンにアンケートが回ったんじゃないかなって(笑)。若い女性からの票が入ったんですか? それって(アンジャッシュ)渡部さんの票が流れてきたんじゃないですか? "浮気をしないキャラ"というか……それ、普通なんですけどね。今の芸能界ではそれさえもキャラになるのかって。とにかく不祥事を起こしていないっていうのが1番でかいんじゃないかと(笑)」
笑いたっぷりの謙遜モードだが、詳しく掘り下げてみると、様々な動きがあった1年だった。昨年10月にはMCを務める『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』(日本テレビ系)がレギュラー化。ゴールデン帯のMCは何度も経験してきたが、これまでとは違った手応えを感じていると言う。
「確かに、この番組は大きかったかもしれないです。番組の性質上、司会しているだけで、ほんとは何も知らないのに賢く見えるというか(笑)。それと、子どもと一緒にテレビに映っていると好感度が上がると聞いたことがあるんで、それもあるのかな。ただ、そうやって好感度が上がって、来年もランキングに入りたいという気持ちが芽生えると、深夜番組での動きが鈍くなってしまいそうで……」
実生活では3児の父。その立場で笑いを取るか好感度を取るかの葛藤はある。親としての顔を積極的に見せないようにしているのは、こんな理由だ。
「好感度を気にすると、下ネタとかやっぱり言いにくくなるんですよ。なので、ファミリー層向けの仕事はバランスよくさせてもらってます。例えばですけど、おむつのCMに出てたら、『ゴッドタン』でキングコング西野のお尻に指を突っ込めなくなるじゃないですか(笑)。この1年に限ったことではないですけど、僕としては、お笑いの仕事がやりづらくならないよう見極めてますね」
この仕事は自分が適任か
一方で、宣伝大使のような役割を期待されることも。昨年は映画『ジョーカー』のプロモーションに登場し、ピン芸人の立場から主人公のペーソスを熱く語る映像はSNSでも評判に。国内興行収入50億円突破という大ヒットの後押しをした。
「映画のプロモーションは芸能人の大事な仕事の1つなんですが、僕の場合は、劇団ひとりに合わないなと思った作品は、事務所サイドでお断りすることもあるんです。『ジョーカー』は、見たら本当に面白かったんで『ぜひともやりたい!』と言いました。プロモーションもやりすぎると説得力がなくなると思うので、慎重に受けるようにしています。
振り返ってみると、合わないことを無理してやらないようにしてきたっていうのはあるかもしれない。若い頃は、無理に引き受けて結果を出せなかったときは毎回自分のせいにして落ち込んでいましたけど、今は、自分は適任なのか冷静になれるようになって。『やり終わったらどういう気分になるんだろう?』というのを考えて臨んでますね。もちろんギャラが桁違いに高かったらそんなこと考えずにやりますけど(笑)」
ここへきて女性人気が上がっているのは、昨年4月に始まった情報番組『中居正広のニュースな会』(テレビ朝日系)のパネラーや、『幸せ!ボンビーガール』(日本テレビ系)で女性を応援する役回りになっていることも影響していそうだ。
「『ニュースな会』に出るようになってから、確かにTwitterで中居さんファンの女性からいろいろメッセージをいただくようになりました。中居さんには直接メッセージが届かないから俺に言うっていうことなんですけど(笑)。それはちゃんと届けてます。
『ボンビーガール』は何年も出させてもらっている番組ですが、女性視聴者が多いので、少なからず影響があるかもしれません。そう考えると、好感度ってさわやかな仕事をしたほうが上がるんですかね?(笑)。"移住ガール"を取材しに海外ロケに行くと、『劇団ひとりさんのロケを見てこっちに来たんです』って声をかけられることがたびたびあって。誰かの人生を変えているわけですから、無責任な情報は流せないなってすごく感じます。
でもね、汚れ仕事でも『この人は身を削って、誰かを笑顔にさせるためにやってるんだ』というのが好感度につながるべきだと僕は思うんですけどね。だいたいそうはならずに『汚らしい! 下品!』って言われる(笑)。
『好きな芸人』3位という結果はすごくうれしい。けど、来年からは西野のお尻に入れる指も浅くなるんでしょうね。あんまり深くいくと好感度下がっちゃうんで」
昨夏はお笑い芸人の青春を描いた連続ドラマ『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)の演出を全話手がけたことも話題に。
「『べしゃり暮らし』はいい経験になりました。自分じゃ当たり前だと思っていたことを改めて役者さんに問われて、どう演出したらいいか分からなくなったこともあって。
例えば……役者さんが漫才をやったときのたたずまいって、どこか違和感があるんですよ。それって何だろうと思ってた時、エキストラとして出てた芸人1年目、2年目くらいの子が舞台に立ったら、その子たちのほうが芸人然としてて。それって『笑わせてやる!』という気持ちの違いなんだって気付いて、以降はリハーサルなし、一発本番で『目の前のお客さんを笑わせてください』ってやってもらったら、雰囲気が変わった。対役者さんとのコミュニケーションという意味で、ものすごく勉強になりました」
衝撃受けた欽ちゃんの洗礼
子どもの頃から憧れだった大御所と何度も共演する機会にも恵まれている。この1年の間にも『コントの日』(NHK総合)でビートたけし、『すじがねファンです!』(テレビ朝日系)で山田洋次監督と共演。『欽ちゃんのアドリブで笑(ショー)』(BSプレミアム)では台本なし、リハなしの本番を通じて、萩本欽一が下積み時代に培ったという浅草軽演劇メソッドの洗礼を受けた。
「『アドリブで笑』は、今まで見てきたどのお笑いとも違って衝撃的で。欽ちゃんってほんとにどうかしてるんですよ(笑)。事前になんにも教えてもらえない状態で、侍の格好をさせられて舞台に出ていって、そこでいきなり刀で斬られるんです。あわてて『うわー!』ってやるんだけど、『ダメ! 面白くない!』って、もう1回斬ってくる。で、ちょっとウケたら、『面白い斬られ方があと8個あるはずだから』って言って、8個出るまで延々斬られ続けるんです。あそこまでSっ気出せる人、いないですよ他に。
この1年、特に変化はないと思ってましたけど、こうして見るといろいろやってましたね(笑)。人生ってどこで何があるか分からないから、とりあえずやってみるというのが自分のモットーなんですが、結果的にそれがよかったのかな。
今回3位ということで取り上げてもらいましたけど、ほんとは『なんとも思わないランキング』で1位でいたい。好きって言われちゃうと守ろうとするし、嫌いって言われると動けなくなるし。俺のことなんて誰もなんとも思っていないっていう状態が生きるうえで一番ラクですから。これからもそんなスタンスでやっていきたいです」
(ライター 遠藤敏文)
[日経エンタテインメント! 2020年9月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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