チャーミングな表情と、奔放で挑発的な語り口なのに巧みな言葉選び。女優の秋吉久美子さんは相手に自分の考えを伝える術(すべ)に長(た)けている。原点は膨大な書物を読破した早熟な少女時代。好奇心のおもむくままに吸収した知識が教養へと熟成し、立ち居振る舞いにも芯を通したようだ。意表を突く言動で「元祖プッツン」といわれたのも、他人におもねらないがゆえ。新刊の「調書」(筑摩書房)では、映画監督・樋口尚文さんと対話しながら女優人生を振り返った。新しいことに挑戦し続け、今を楽しむ気概に満ちるその姿勢が、年齢を重ねてなお、秋吉さんを輝かせている。
たっぷり睡眠が若さの秘訣
――欧米と比べて日本は年齢を重ねることに抵抗しがちです。
「考え方の違い、というより、ベクトルの違いでしょうね。日本は幼いな、という感じ。私にとって年齢はジョークみたいなものなの。『お若いですね。40代にしか見えませんよ』なんて言われると、え? 24歳のつもりでいるんですけど、って言っちゃう。お若いですね、なんて言われて喜ぶほどヤワじゃないぞ、と」
――ただ、少女がそのまま大人になった雰囲気を持ち続けています。
「ロングスリーパーだからかな。たっぷり8時間、9時間寝るから、若く見えるんじゃないでしょうか。睡眠を大事にしているんじゃなくて、ストレス解消法が睡眠なの。寝るときはとにかく楽しくて、うれしくて。そうして、起きたときに夢を見ていないと、ああつまらない、と思っちゃう」
――夢を覚えているのですね。
「たいてい覚えています。夢が面白いと急いで夢占いの本をめくって、どういう意味だったんだろう、と探してみます」
――大人が楽しく、充実した世の中になるために何が必要でしょうか。
「大人になること。それと、大人であることを認めることではないでしょうか。あ、大人になることはイコール、純情じゃなくなる、ということとは違いますからね。大人だなあ、という言葉は、あまりよくない意味として使われます。いわゆる癒着・談合・結託、物事の裏を考えながら全部妥協していく、みたいな」
「いいなと思うのは、ピュアでまっすぐな大人です。生き方を貫いて、なおかつ、かわいさも失わず。お互いに1人の人間として認め合いながら、自立していながら、助け合うこともできる。そんな大人の関係ってあるはずですよね」
――年齢を重ねてからの装いについて、美学はありますか。
「そうですね。しょったれないような格好でいること、ですね。しょったれない、というのは、情けなく見えない、ということ。例えば50回洗ったネルシャツを若い人が着るとグランジ(ロックから派生したストリートファッション)なんだけど、年を取った人が着たらみすぼらしくみえてしまうこともありますよ。それをよくわかって着ること。どこか1カ所がパリッとしていればいいんです。例えばグランジのシャツを着るなら、ジーンズは新しいものにする。楽だけどパリッとしていることが大事ですよね。装いは、あんまり飾ると情けなく見えるものです。でも、飾らなくても情けないのですけれど」